商品体験の充実と文脈的コンテンツの重要性
MarkeZine編集部(以下、MZ):近年、消費者動向が物質的なモノを所有することで満足感を覚えるモノ消費から、モノやサービスを通した体験による心の充足感を重視するコト消費へとトレンドが移り変わってきました。企業は、そうした変化にどう対処していくべきでしょうか。
渡辺:消費者が商品を購入する際の意思決定要素が変化しています。昨今の消費者は、企業側が提供する機能的な広告に対しては、あまり魅力を感じていません。一方で、購入者のレビュー・体験談をネットで検索したり、SNSで他のユーザーの利用シーンを参考にしたりと、オフィシャルで提供されている仕様や規格といったスペック以外の情報を重視しています。
渡辺:そのように消費者がネットやコミュニティで情報を検索しているということは、企業側が提供している商品情報が不足している、またはニーズを捉えきれていない状態と言えます。私たちは、商品体験談、ユースケース、レビュー情報や、動画や画像といった感情に訴えるコンテンツも商品情報の一部と捉えています。そして顧客のペルソナやカスタマージャーニーに合わせて最適な商品コンテンツを提供することで、高い顧客ロイヤルティを獲得できると考えています。ここで重要な点は、顧客にとってそれらの情報がチャネル横断的に“文脈のある”コンテンツであることです。このように商品情報に着目したマーケティングは「PIM(※)」と呼ばれ、日本でも必要性が認識されつつあります。
※PIM(Product Information Management)
企業内で担当メディアや部署ごとに散在する商品情報を一元管理し、それらを自社サイト、ECサイト、モールサイト、実店舗、印刷物など様々な場所で必要となる情報を適切な形で最新のものを供給する仕組み。ここでいう商品情報には、仕様や規格だけでなく画像やロゴ、製造元情報、開発ヒストリーや利用シーンなど消費者の感情にアプローチするためのエモーショナルな情報も含まれる。商品情報管理とも呼ばれる。
経営と現場のギャップ
MZ:企業側では、マーケティングにおける商品情報管理の重要性はどの程度理解されているのでしょうか。
渡辺:たとえばバックオフィス業務に携わる方の話を伺うと、「商品情報管理は既にできています」と言われることが比較的多いです。販売管理や物流に必要なスペック情報はきちんと管理され、提供しているというわけです。しかし、マーケターや各チャネルの担当者の方などからは「商品情報管理がまったくできていません」と逆のことを言われます。
企業内の立場や役割によって、何をもってして「商品情報管理ができているか」というところからギャップがあるわけです。結果として、開発サイドは、良い商材なのになぜ売れない、マーケティングや営業が十分に機能していないからだ、と嘆く。一方でマーケティング・営業サイドは、売るために必要な情報が十分に提供されていないと主張します。
商品ブランディング先進国のヨーロッパでは、PIMという言葉が広く経営者にも認知されていると聞きます。日本でも、経営者が商品情報管理の重要性を理解し、トップダウンで商品情報管理プロセスを最適化していく必要があります。