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マーケターに知って欲しい、マキシマムザ亮君の企画発想術


 本記事では、人気ロックバンドのマキシマム ザ ホルモンのメンバーであり、作詞作曲から広告まで、バンドに関わるすべてのクリエイティブディレクションを手掛けるマキシマムザ亮君に、腹ペコ編集部員(=ホルモンファンの編集者のこと)が取材を実施。前半では、亮君が広告に興味を持ったきっかけ、企画や広告クリエイティブの発想方法について聞きました。

亮君が広告に興味を持ったきっかけ

MZ:本日は人気ロックバンドのマキシマム ザ ホルモン(以下、ホルモン)のマキシマムザ亮君に取材をさせていただきます。亮君は最近では日清食品のアウトサイダー広告代理人として、「カップヌードル コッテリーナイス」の広告クリエイティブを担当し、腹ペコ(ホルモンのファンのこと)の間だけでなく各所でも話題になりました。

 今回はそんな亮君に自身で手掛けているホルモンの広告やマーケティング、また日清食品との取り組みについてもうかがいたいと思います。そもそも、亮君はどういったきっかけで広告に興味を持ったんですか。

亮君:最初のきっかけは、『ファミコン通信(現在のファミ通)』というゲーム雑誌の中に載っていたゲームの広告ですね。特に任天堂の「MOTHER」というゲームの「エンディングまで、泣くんじゃない。」という糸井重里さんのコピーにすごく衝撃を受けました。その他にも映画のポスターとかも大好きでしたね。

マキシマム ザ ホルモンの歌と6弦と弟、マキシマムザ亮君
マキシマム ザ ホルモンの歌と6弦と弟、マキシマムザ亮君

MZ:子供のころから、広告をよく見ていたんですね。

亮君:あと、僕らのアルバム『予襲復讐』に収録されているマンガでも書かれているんですけど、架空のバンドでCDの帯を作るのが好きで。「移籍後初のベスト盤、ついに登場」「第三期黄金期を乗り越えた」みたいなコピーを勝手に考えて作って遊んでいました。

 ロックの道に入っていったのもそこからです。その架空のバンドの曲を聞いてみたいと思って作曲したものが、ホルモンの曲にもなっています。

亮君流・企画の通し方

MZ:架空バンドでコピーライター的活動をしていて、そこからホルモンが始まったんですね。亮君はホルモンでもライブの内容からCDジャケット、帯のデザインまで企画していると思うんですが、広告・マーケティングの視点でそういったことは考えていますか。

左:アルバム『予襲復讐』 右:映像作品集『Deka Vs Deka』
左:アルバム『予襲復讐』
右:映像作品集『Deka Vs Deka』

亮君:ビジネス目線ではあまり考えていないですね。自分がやってみたいことを企画に落とし込んでいます。それこそ最近のYouTuberと発想の仕方は変わらないかもしれませんね。

 ただ、アイデアは誰でも思いつく上に、実行するにはお金も人手もかかる。メンバーや事務所のスタッフと徹底して内容を詰めないと企画倒れになり、失敗に終わってしまいます。実行に向けた会議はしっかりしますね。

MZ:ちなみに会議の中で、やる・やらないをどのように判断しているんですか。

亮君:基本は自分で一通り考えて、それをメンバーや事務所のスタッフに話しています。最初からみんなでワイワイ会議して作っていくのは好きじゃなくて。というのも、自分が突拍子もないことを言っちゃうので、その時のムードで「いやそれってどうなの……?」と正論で言い返されると、根がまじめなので一瞬で気持ちが冷めちゃうんです。

 だから、正論とか考えずにまずはバカげたことを大真面目に暴走させ、その後ツッコミが入りそうなところを一人でガッチリ固めてから持っていくようにしています。人に消しゴムであとからガシガシ消されて汚されちゃう前に、先に自分の手で綺麗に修正しておくみたいな(笑)。そうすることによって、事務所の大人や他のメンバーはすんなり共犯者になってくれます。

ジャケ買いのあるところに流通を

MZ:広告・マーケティングに関わる人にも参考になる企画の立て方ですね。ホルモンは商品設計や販売の仕方もおもしろくて、2018年にコミック+CDという斬新な形でリリースした『これからの麺カタコッテリの話をしよう』も話題になりました。

 書籍という立て付けにしたことで、多くの書店にも流通し、非常に反響が大きかったと思うのですが、なぜそのような形でリリースしたのでしょうか。

『これからの麺カタコッテリの話をしよう』
『これからの麺カタコッテリの話をしよう』

亮君:まず、ジャケ買い(パッケージデザインをきっかけにCDなどを買うこと)してほしいと思ったからですね。僕自身いまだにジャケ買いをするんですが、最近は通販や音楽配信サービスが浸透してCDショップに足を運ぶ人が少なくなっています。そのため、必然的にジャケ買いする人も減っているんです。

 あとショックだったのが、万引き防止でダミーを入れられちゃうことが多いんですよ。ホルモンの作品はジャケットもこだわって作っているのに。ただ、その状況下でも、書店にはジャケ買いの文化が残っていると思うんです。『コロコロアニキ』でマンガの連載(『マキシマムザ亮君の必殺!!アウトサイダー広告代理人』)を手掛けているタイミングだったので、それに合わせて「本屋で新作を発売したれ!」と思いついて。

MZ:なるほど、コミック単体ではなくCDを入れたのも理由があるんですか。

亮君:コミック単体で出しても、コアな腹ペコしか買ってくれなかったら嫌で。マンガも音楽と同じくロックの作品のひとつと思って作ったので、新曲の入ったCDとマンガのセットにすれば、多くのファンにどちらも味わってもらえると考え、CDも入れました。

マトモじゃない広告を出しまくった理由

MZ:次に、『これからの麺カタコッテリの話をしよう』の広告について話をお聞きします。HMVのポスターがタワーレコード風のデザインになっていたり、なぜかキリンをメインにしたデザインの雑誌広告が出ていたりと、正直「マトモじゃない(笑)」と思ったのですが、どういった理由でこれらの広告を出したのでしょうか。

実際に出稿されたキリンがメインの雑誌広告
実際に出稿されたキリンがメインの雑誌広告

亮君:普通に広告クリエイティブをプロのデザイナーさんにお任せすると、ありものの素材で普通のデザインになっちゃうんですよね。それが悪いとは思いませんし、音楽雑誌などきちんと情報を届けなければいけない媒体には必要な要素を入れた広告を出稿します。ただ、こちらの伝えたい要素だけではインパクトに欠けると思ったんです。その結果、遊んでしまえと思って(笑)。

MZ:企業で広告・宣伝を担当している方もジレンマに感じている部分だと思います。伝えたいことはあるけど、それだけだと相手が振り向いてくれないという。

亮君:やっぱり全部が全部同じ広告だと、作るほうも見るほうも飽きちゃうと思うんです。だから、作品タイトルが入っていればそれでいいかなと黄色いボックスにタイトルなどの要素を入れて、キリンやロープウェイ、メタボ男などを使った広告を出していましたね。

左:ロープウェイがメインの雑誌広告 右:太った男性がメインの雑誌広告
左:ロープウェイがメインの雑誌広告
右:メタボ男がメインの雑誌広告

MZ:ロープウェイにメタボ男もですか?(笑) 雑誌以外にもWebのバナー広告でキリンを見かけたんですけど、様々な媒体で複数のクリエイティブを出していたんですね。

亮君:今回の作品で作った黄色いボックスロゴが気に入っていて、あれを入れればどんなものでもカッコよくなるんですよ。当分はこれで引っ張ろうかなと思っています。日清食品のCMでも活用していますし。

MZ:HMVとタワーレコードのポスターが入れ替わっていたのは、大丈夫だったんですか。

亮君:最初、レコード会社の人にも心配されましたが、両方やれば問題ないと押し切りました(笑)。それも、「僕が間違えて提出しちゃったということにすればいいじゃん」と。大体の人はわざとだと気づいていると思いますが、うちの嫁はツイートしたのを見て「本当なの!?」って信じてましたね(笑)。

盛り付けにこだわれるバンドに

MZ:『これからの麺カタコッテリの話をしよう』の広告を様々な形で行ってきたわけですが、その成果はありましたか。

亮君:売上はもちろんなんですが、今回みたいに音楽以外の取材が増えましたね。音楽関係も含め、取材はお断りすることが多いんですが、この取り組みはむしろ語っていきたいと思っています。

 正直、バンドマンがビジネスの話をするとカッコ悪く見える。ただ、いろんな人にホルモンのことを広めたいし、出会ったことない人たちにホルモンを知らしめるための力が欲しいんですよ。

MZ:確かに力がないと、今回のように様々な媒体に広告も出せないですもんね。

亮君:バカな企画ひとつやるにしても、予算も人気もなければ実現できませんし、多くの人間を巻き込めません。そのためには広告的発想でバンドをアピールするのも大事だと思ってます。

MZ:バンドマンって「自分の音楽が良ければ売れる」とどこかで思っているイメージだったので、ここまで広告やマーケティングについて考えているのは珍しいと思いました。

亮君:もちろん、やりすぎるとビジネス臭くなるので線引きが重要です。実際、僕らもテレビCMに曲が使われたり、何かのスポンサードをしてもらったりすると「亮君は金に目がくらんだ」などと勘違いされたりもしますしね。

 バンドに一番大事なのは音楽。それは当然です。でも料理にたとえると、「料理はうまいのに、盛り付けがイマイチ」ってバンドも多い。盛り付けって大事で、回転寿司とかでも黒い高級なお皿にのって回ってると、食べた時さらにおいしく感じたりもするじゃないですか。それがうそになったらダメだけど、見せ方を変えればもっと食べてもらえるチャンスは増えるのにと思うバンドはいっぱいいます。

 そういう部分はレコード会社や広告代理店の大人が考えることかもしれませんが、音楽をやってきたやつが、そこも音楽の一部と思って真剣に考えたほうが絶対良いと思ってます。

 想像を超えるボリュームになってしまった(笑)ので、亮君が制作を手掛けた日清食品のCMやホルモンがこれまでに手掛けてきた話題作りについては、後半の記事をご覧ください!

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この記事の著者

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/06/03 11:32 https://markezine.jp/article/detail/31020

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