個別交渉で2ndパーティデータを獲得
――カバレッジを30%から80%まで伸ばすため、具体的に何をしたのでしょうか。
森本:まずIPアドレスでターゲット企業を特定しました。BtoCマーケティングではCookieからルックアライクモデルを使って拡張配信をしていますが、BtoBマーケティングで同じようにすると、ターゲット外にも広告配信がされてしまいます。または企業を特定した広告配信をしてもターゲットユーザではない人に広告が出てしまいます。それらの無駄な広告を減らすために目を付けたのが2ndパーティデータの活用です。

具体的には特定のビジネス系メディアが保有しているデータを共有いただいています。これは媒体社にとっては1stパーティデータですから、一般の流通では出回らず、個別交渉で買い付けをしないと得られないものになります。
ビジネス系メディアに目を付けたのは、私たちがターゲットとしているIT部門、総務部門、あるいは経営企画部門が日常的に接しており、かつ上級管理職ほど高い接触比率になっているからです。

――2ndパーティデータの活用交渉は難しかったのではないでしょうか。交渉はどうやって進めたのですか。
森本:最初に広告代理店の方に相談した時は、即座に難しいだろうと言われました。だからと言って、簡単に諦められません。KDDIが以前からお付き合いがあった媒体社の担当の方に直接私たちの構想を理解してもらうよう持ちかけたのです。先方とは広告主と媒体社としてではなく、ビジネスパートナーとして交渉に臨みました。
中東:今のメディアは、広告主にとって価値があるオーディエンスとそうではないオーディエンスに同じ価格で広告を売り、場合によってはインベントリをアドネットワークに流してしまっています。それではもったいない。ターゲットに確実に当たる広告であれば、より多くを支払うモデルにする方が良いはずです。ですから、媒体社として保有するデータに適切な価値を付与する実験ができないかと提案しました。双方が提供できる価値同士の交差点を見つけられたのが良かったと思います。

森本:交渉の過程で、BtoB向けのディスプレイ広告の売り上げが低迷していることをメディア側も課題としていることがわかりました。一つのインプレッションに対して均一な単価を設定するのではなく、ターゲティングすることで単価を変えることができれば、メディアの価値も上がる。そう訴えて、一緒にやってみようと持ちかけたのです。
中東:とても難しい交渉でした。でも、どこかがまとめてくれるのを待っているのではなく、自社の顧客を定義してどうやってエンゲージするかを考えると、必要な協力を得るための労力を惜しんではいけないと思います。
――メディアは良い広告枠だけを売ることに抵抗があるのではないでしょうか。
中東:インベントリが余ったらネットワークに配信することになりますが、そこに納得の行く値段が付かないこともあるでしょう。インベントリの価値を最大化して全体としての収益を増やせるのなら、メディアビジネスとして望ましい姿だと思います。私たちのような広告主が増えてくれば、オーディエンスに応じて価格が変わることにもなるでしょう。
また、私たちは総務部門のオーディエンスを高く買いますが、他の会社であれば経理部門のオーディエンスをより高く買うこともありえます。「良い広告枠」は広告主によって異なる可能性があります。
森本:DSPで行う入札をメディアの中で行うPMP(プライベートマーケットプレイス)の仕組みが整えられれば、もっとオーディエンスの価値は高まると思います。従来の枠売りよりもインプレッション単価が入札で高くなるが、広告主としては今までの無駄な配信を考えればイーブンもしくはそれ以上のコスト効率につながるのではと考えています。
中東:広告主サイドとしては、効果が低い広告は見直さなければなりません。そのための方法はクリエイティブの変更や単価交渉も考えられますが、効果の低い広告を減らし、もっと効果の高い広告に予算配分を傾斜させる方が合理的です。