TikTokの利用実態から読み解く、若者の映像視聴市場
ここまでは、映像メディアと生活行動の関係性を俯瞰したマッピングの読み解き方について紹介した。ここからは、さらに踏み込んで、特定の映像メディアを事例に、このマッピングからどのように解釈・知見が得られるか考えてみる。今回はTikTokを例に挙げたいと思う。
TikTokの詳細については本稿では割愛するが、若年層を中心に人気の動画投稿スマホアプリである。ひと研究所による調査では、15~34歳の認知率は79%、男子高校生は84%、女子高校生では96%に達しており、認知者に占める利用経験率は、15~34歳では2割程度、高校生では4割程度に達している。魅力としては、「短い動画でおもしろさ・かわいさ・かっこよさが瞬時に伝わる」「暇なときにサクサク見られる」「YouTubeほど時間がかからないから、移動中など気軽に見ることができる」といったことが挙げられる映像メディアである。
【調査概要】 ビデオリサーチひと研究所 TikTok利用についての調査
調査対象者:15歳~34歳(中学生は除く)
サンプル数:1,867名
調査エリア:日本全国
調査方法:インターネット調査
調査時期:2019年2月12日(火)~13日(水)
筆者がクライアントと議論や打ち合わせをする際に、TikTokが話題になることもあるが、実際のところ、上の世代はTikTokの利用実態が想像できないことも多い。また、実際に若者においても万人受けはしておらず、TikTokのイメージを調査で聞いてみると、「楽しい」「流行っている」という回答も多いが、その一方で「何がおもしろいのかわからない」という意見も目立つ。若者の実態を捉える上では非常に重要な映像メディアであるTikTokであるが、きちんと理解するための調査・分析が必要である。
改めてTikTokが先ほど紹介したマッピングではどのような位置であったのか見てみると、右下「手は空いているが細切れな時間」の領域に位置している。確かに、TikTokの魅力として前述の通り、細切れな時間という視聴シーンにマッチしているわけである。逆に言えば、ある程度の長尺の動画視聴が想定されるYouTubeやAbemaTV、Amazon Prime Video、さらにはテレビ放送とは、視聴シーンから見ても異なるものであるのは容易に想像できる。
ここで仮に、TikTokがさらなる利用拡大を図るとしたらどのような方向性があり得るか、ということを考えてみる。この事業戦略的な視点でマッピングを見ることが、実は若者における動画メディアと生活行動の関係性を理解することにつながる(図表4)。

前提として、メディア側から考えた場合、映像視聴とは、“生活者から生活場面における時間を頂く”ことである。そして、どの時間を頂くかで、そのメディアの立ち位置が決まってくる。TikTokを起点にポジションを考えてみると、全体として4つの方向性が考えられるので説明していく。
まず現在の右下(1)のポジションを貫く場合は、「自宅内外の細切れの時間を頂く」ことになり、そこにマッチするのは短尺で暇つぶしになる動画である。現状、TikTokはこのポジションにマッチしている。では他の方向はどのように考えられるか。
上方向(2)では「自室や寝る前の時間を頂く」ことになり、競合としてはYouTubeが圧倒的に目立つ存在である。左上方向(3)では「リビング滞在の時間を頂く」ことになり、ここにはテレビ(リアルタイム視聴、録画視聴)やDVD・ブルーレイ視聴など、テレビ受像器がいる。また家族と同時に視聴する時間もあることは念頭に置きたい。そして左方向(4)は「食事中の時間を頂く」ことになり、食事や朝の身支度などの手が埋まっている時間でも利用しやすいコンテンツやUIが求められる。
こう考えてみると、映像メディアと一口に言っても、視聴される生活シーンによって、コンテンツも、デバイスも、UIもそれぞれのシーンに適合しなければならないことが想像できるだろう。
起きている時間すべてに映像が届く世界で
今回はTikTokを事例として、若者の映像メディアと生活行動の関係性を考えてみた。もちろんTikTok以外の映像メディアにおいても、前掲のマッピングを使えば、生活行動上の競合メディアや進むべき方向について、様々な示唆を得ることができる。
また映像メディアの戦略だけでなく、このような各映像メディアが生活者のどのようなシーンにマッチしているのか把握することは、広告を出稿する際にも、具体的な生活者を想像する上で役立つ視点となるだろう。デジタルマーケティングにおいて動画広告がより重要性を増す中で、ぜひ参考にして頂きたい。
起きている時間すべてに映像が届く世界がやってきたが、生活者はいつでもどこでもテレビや映画を見たいわけではないし、リビングで短尺の動画を家族と見たいわけでもない。どのような組み合わせで映像が消費されているのか、今まで以上に生活者の実態を把握していくことが必要となっている。