メール開封率・リピート率ともに上昇
Marketing Cloud導入前は、どの顧客に対しても一律でメールやDMを送信していたが、導入後は一人ひとりの顧客の購買を起点とし、きめ細かなコミュニケーションができるようになった。デジタル・CRM推進室 副主任の高木優氏は、Marketing Cloud導入後、メールの開封率も従来1割程度だったものが、2〜3割へと上昇し、「時には6割近く開封されるものもあります」(高木氏)と話す。
2018年の1年間で少しずつシナリオを増やしながら施策を続けた結果、リピート率は4ポイントほどアップしたという。しかし同社では、「メールやアプリなどデジタル接点をもっている会員自体が少ないので、まだ全体への影響は微々たるものです」(吉田氏)と状況を冷静に見ている。
現在進めているのがスマホアプリの刷新だ。従来は店舗で使える会員証となるアプリだったが、刷新プロジェクトを進めている同社デジタル・CRM推進室 課長の上遠野勇樹氏は「接客やレコメンドなどに生かしつつ、店舗はもちろんECの利用促進も図りたい」と説明する。
グループ全体の相乗効果を見越した施策や新ビジネスの創出へ
もう1つ考えているのが、会員データを活用した新規ビジネスの展開だ。実は同社ではMarketing Cloudのほか、「Salesforce Audience Studio」や「Einstein Analytics」、「Salesforce Service Cloud」も導入し、顧客との多様なコミュニケーションを展開している。たとえばメールコミュニケーションをオプトアウトしている顧客に対しては、「DMP(Salesforce Audience Studio)を活用してECの閲覧履歴からリターゲティングを行うなど、デジタル広告でコミュニケーションを行ったり、デジタル広告とDMを組み合わせた施策を進めたりなど、コミュニケーションの充実と成果向上の両方で施策を立てています」(上遠野氏)という。
将来的には、この3,200万会員に対し、グループ企業の商品・サービスだけでなく、会員のライフスタイルをより便利に、より豊かにする、他社の情報を広告配信することも構想している。ブライダル事業なら、保険の見直しや自動車の買い替え、不動産の案内を送り、エンターテイメント事業なら、e-sportsやアニメ、音楽、資格取得のための商品・サービスを提案するなど、様々な展開が期待できる。
「今、お客様へのアンケートもメールで行っており、接客や商品に対するレビューも蓄積できるようになりました。ありがたいことに、良い評価は9割以上なので、この評価をデジタルチャネルや店舗の接客に還元し、お客様とのエンゲージメント強化や、社員のモチベーションを高める施策につなげていきたいと考えています」(吉田氏)
またMarketing Cloudの活用も、AOKIで得た知見を基に、グループ全体への導入を進めていくという。3,200万という会員データを武器に成長を続けるAOKIホールディングス。さらなる発展に期待だ。
カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント
大島:顧客のLTVを高めるため自社との接点を再整理するのには、カスタマージャーニーを描くことはうってつけです。新たな施策によって顧客接点を増やしたり、データの取り方を改善するためのアプリの刷新を計画したりするなど、同社ではカスタマージャーニーをもとに、足りない部分を補完する対策をしています。店舗で得た顧客の行動パターンから、先んじて情報提供できるように改善を図るなど、人の感性とデータとをうまく組み合わせた、素晴らしい取り組みだと思います。
安成:ブランドとして一貫した顧客体験を提供していくには、デジタル部門だけでなく、他部署の理解や協力が欠かせません。デジタル・CRM推進室が中心となり、ECチーム、販促チーム、さらには店舗スタッフなど現場の社員まで、全社一丸となってカスタマージャーニーマップの作成から顧客に向き合ってきたからこそ、顧客起点の考え方が社内全体に根付き、それがMarketing Cloudをはじめとしたツールを十分に活用できる土壌となっています。3,200万という会員データを武器にした、AOKIホールディングスのさらなる展開に今後も注目です。
カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、安成率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコムでB2Cカスタマージャーニーシニアスペシャリストとして、データに基づいたカスタマージャーニーの設計・検証・再現などを追求してきた大島彰紘氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら。