MA×インサイドセールスでパイプライン創出を実現
主力事業の競争激化や、オフィス環境自体の変化が進む中、コニカミノルタジャパンは大規模な営業プロセス改革に取り組んでいる。従来は営業担当が全プロセスを一手に担ってきたが、生産性を高めるため、興味喚起とヒアリング・情報提供をデジタルマーケティングとインサイドセールスで担う体制へと変更。MAも導入し、現状分析やターゲットの明確化などを推し進めた。
その結果、2018年度には、営業部全体で創出したパイプラインのうち、マーケティング施策によるものは20.4%、スタート時に掲げたパイプライン創出の目標額も146.7%達成という快挙を遂げた。
「マーケティングの貢献割合は、平均的に10%程度と言われているなか、1年間こつこつと地道にPDCAを回し続けた結果、このような成果を出すことができました」こう語るのは、同社のデジタルマーケティング全体の推進・強化を行う井田有里紗氏だ。
では、同社は具体的にどのような施策を行ってきたのだろうか。井田氏は、実際にマーケティングチームの体制構築・MA導入の次のステップとなるPDCAを回していく中で直面した課題とその解決策を、「メールマーケティング」「タッチポイント&コンテンツ」「営業との連携」という3つのテーマに沿って振り返った。
チーム体制の見直しやMA活用のポイントが語られた「MarkeZine day 2018 Autumn」のイベントレポート「コニカミノルタジャパンが明かす、MA活用を成功に導く4ステップ」はこちらから。
メール送信数は多いほど効果的か?
一つ目のテーマは「メールマーケティング」だ。営業側から「1件でも案件が欲しい」とメールキャンペーンを依頼され、ハウスリスト全員への送信を頼まれた井田氏。同氏はマーケティング担当として「営業の気持ちはわかるが、一斉配信ではオプトアウトが増えそう」と懸念した。しかし一方で、「一斉配信をやめ、配信数を減らすことで、案件化につながらなかったら……?」という不安も抱えていたという。
営業からの要望を受け入れる形で一斉送信を実施したところ、案の定、オプトアウトが想定より多く出てしまった。「このままではいけない」(井田氏)と、改善に踏み出した。
まずは、過去に実施したメール配信の結果や、その先の案件化数を再確認。すると、ターゲティングしてメールを打てば配信数は減るものの、開封率やクリック率は上がるはずだと気づいた。開封率やクリック率が上がれば案件化数は維持できる上、オプトアウト数も抑制できるはずとの仮説を立てた。
仮説を検証しようにもデータが足りない!
仮説を検証しようとした矢先、次の壁にぶつかった。コニカミノルタジャパンはMAを導入して日が浅く、顧客行動のデータがそれほど蓄積されていなかったのだ。属性情報も、顧客自身が入力した部署や役職の区分、会社の都道府県といった情報のみ。「既存のデータだけでは、満足なターゲティングができない」と知り、井田氏は愕然としたという。
そこで販促費をなんとか工面して、企業の活動状況などを網羅したBtoBマーケティングプラットフォーム「FORCAS」を契約し、既に導入していたMA「Pardot」のデータとつなぎ合わせた。ターゲティングの精度を高めてメールマーケティングを実施したところ、目標としていた案件化数は維持しつつ、オプトアウト数は半分以下に抑えられた。
実際に、資料ダウンロードを案内するキャンペーンでは、3つに分けたセグメントごとにタイトルや本文をカスタマイズ。すると、開封率やクリック率、資料ダウンロード率は大幅に向上したという。
「ターゲティングにおいて気をつけているのは、策定したペルソナやカスタマージャーニーマップをもとにすること」と井田氏。どんな属性で、どんな状態に置かれた人なのかを考え、「その人はこんな課題を抱えているだろうから、こんなキーワードを入れてみよう」と想像することで、受信者が欲しい情報を欲しいタイミングで、まさに1to1のように届けることが可能になるのだ。
タッチポイントを拡大し、自分たちらしいコンテンツを制作
二つ目のテーマは、タッチポイントとコンテンツだ。今まで同社のパイプライン創出に大きく貢献していたのは、自社セミナーだった。ノウハウは溜まってきており、実施すれば結果が出るものの、数をこなすことはマーケティングチームにとって大きな負担。セミナーのネタも無くなりつつあるため、開催回数を抑えたい。開催回数の削減を補うためにも、インバウンドの件数を増やしたいと考えていた。
井田氏がまず着手したのが、タッチポイントの拡大だ。自社Webサイト内に事例ダウンロードページや問い合わせフォームは既にあったが、eBookなどの資料をダウンロードできるページも新たに設けた。またSNSアカウントを開設し、メディア掲載から自社Webサイトに流入する動線づくりも実施した。
タッチポイントを増やしたら、そこで発信するコンテンツが必要となる。とはいえ、事例集を短期間でいくつも制作するのは、クライアントとの調整なども考慮すると難しい。井田氏が着目したのが過去にセミナーで使用した資料であった。セミナーに興味があっても参加できなかった潜在層はこれまで埋もれていたが、セミナー資料をダウンロードできるようにすれば、彼らのニーズが明らかになる。
営業担当が作成した提案資料も、eBook制作に役立てた。ゼロから企画する場合よりも大幅に手間を削減できたほか、「eBookで訴求する内容と、実際に営業が提案する内容にずれが生じ、顧客に『期待していた提案と違う』と言われてしまうことも減らせた」という。
「一生懸命に実施してきた自社セミナーは、まさに宝の山。有効に活用することで、施策を広げることが可能になりました」(井田氏)
反応は多いのに案件化につながらない理由とは?
インバウンドがきっかけとなって案件化した件数は、前年比1.63倍にまで増えた。だが「実は成功ばかりでなく、失敗もしています」と井田氏は打ち明ける。
失敗事例として井田氏が紹介したのは、ターゲットを絞り込んでメールを送付し、資料をダウンロードしてくれたユーザーにはステップメールを送る。ステップメールに反応してダウンロードしてくれたユーザーにはインサイドセールスでフォロー、ニーズがある場合は営業に引き渡す、というシナリオの施策だった。
同施策を実施したところ、2回のメールに反応したユーザーは少なくないのに、ニーズのある人がほとんどいなかったという。アポイントにも、もちろん案件化にもつながらないという状況に陥り、「ターゲティングがずれていたのか、あるいはコンテンツのミスマッチか」と悩みながら、原因を探したという。
その答えは、「そもそも、資料をダウンロードしたことを覚えていない人が多いんですよね」という、インサイドセールス担当者からのフィードバックにあった。送付したメールを見てみると、何気なくURLをクリックしただけでダウンロードが開始され、それがニーズ有りと判断されてしまう仕組みになっていたのだ。
そこでダウンロード用のリンクであることをメール本文に明示したほか、クリック後は個人情報の入力フォームが表示されるよう、ワンステップを追加。すると、次回以降のキャンペーンではアポイント獲得率を改善できたという。
「施策の結果を分析し、改善すべきポイントを洗い出して次回に反映することの大切さをあらためて感じました」と井田氏は振り返る。「日々様々な施策を実施していると、目の前のタスクに追われがちです。それでもメンバーと振り返る時間を持ち、PDCAを回すことが成果につながることを実感しています」(井田氏)
放置案件は一目瞭然なのに減らないのはなぜ?
三つ目のポイントは、営業との連携だ。コニカミノルタジャパンでは、マーケティングチームがニーズを明確にし、リードを営業に渡す。そして営業が訪問した際に、見込みがまだそれほど高くないと判断した場合は再度マーケティングチームに預ける、いわば循環型の仕組みを構築していた。
だが、井田氏によると、この仕組みは初めから順調に運用されていたわけではないという。当初はマーケティングチームが、行動や更新が一定期間されていない、いわゆる放置案件が自動的に蓄積される一覧レポートを設定し、その確認や管理は営業に一任。見込みが高くないリードはマーケティングチームに戻してよい旨も伝えた。だが放置案件は減るどころか、少しずつ増えていった。
「せっかく生み出したリードも無効になってしまう」と危機感を募らせたマーケティングチームは、自ら案件の進捗状況を毎週確認することに。SFAのチャット機能を活用し、営業とコミュニケーションをとり、案件をマーケティングチームに戻すのか、営業側で追い続けるか、次回のアクションは決まっているかの確認を続けるうちに、営業側が案件の進捗状況を更新し、マーケティングチームにも能動的にリードを戻すようになった。さらに、放置されやすい案件の共通点が見えてきて、営業からマーケティングに戻す基準も明確になり運用が定着。開始時には毎週1時間半ほどを要した確認作業も、今では30分程度で完了するという。
時間短縮だけでなく、営業から預け直されたリードがインサイドセールスによって案件化につながるなど、本当に欲しかった効果も徐々に現れてきた。
目標数値にシビアに向き合うことが連携の秘訣
営業の進捗をマーケティングが確認する際に、悩ましいのが「マーケティングはどこまで口を出していいのか」というさじ加減だろう。「放置案件を1件でも減らすため、積極的に口を出したい」という熱意と、「営業から嫌われたくない」という本音との板挟みは、マーケターを悩ませる。その傾向は、特に歴史あるBtoB企業において顕著だ。
この企業風土の壁を乗り越えるためマーケティングチームが心掛けたのは、数字で伝えること。週次の営業会議において、マーケティングチームもパイプライン創出の進捗率を共有した。
「営業は常に『受注金額』という数字で評価されています。そこで私たちマーケティングも、受注に貢献する『パイプライン』という数字にシビアに向き合うことが必要です」と井田氏。「マーケティングもこれだけ数字に向き合い、共通のゴール達成を目指しています、だからお互いに最善を尽くしましょう、と強い連携が可能になるのです」
営業連携とPDCAの徹底は永遠のテーマ
3つのポイントにおいてPDCAを地道に回し続けることで、昨年度は営業部全体で創出したパイプラインのうち、マーケティング施策によるものは20.4%という快挙を遂げた。これまでの試行錯誤を振り返った井田氏は、「マーケティングと営業が共通のゴールに向かって連携する仕組みを作り、数字を見ながらPDCAを回し続けることがポイント」と総括する。
だがこの総括、「実は半年前のMarkeZine Day 2018 Autumnでお伝えしたメッセージとほぼ同じだということに気づきました」と井田氏は振り返る。
「一つ上の段階に進んだら、また次の改善すべき点、乗り越えるべき壁が出てくる。あらためてBtoB企業のマーケティングにおいて、営業との連携とPDCAの徹底は最も重要なポイントであり、永遠のテーマなのだと再確認しました」(井田氏)
この2大テーマに真摯に向き合い、悩みながらもコツコツと実践していくと、効果が出てきて連携を強化できる。「するとマーケティングのやりがいを感じることもできます」と、自身の体験をもとに語る井田氏。
同じような意識で取り組むマーケターが増えていけば、マーケティングやマーケターの価値が、営業が強いBtoB企業においても認められるようになるだろう。井田氏は「事業成長のためにはマーケティングが必要不可欠だという価値観が、日本のBtoB企業でも当たり前になればと心から願っています」と述べ、講演を結んだ。
コニカミノルタジャパンでは、自社で実践したノウハウを基に、BtoB企業のマーケティング・営業プロセス改革を支援しています。詳細はぜひこちらからお問い合わせください。