SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

マーケター必読!論文のすすめ

「ユーザー・イノベーション」に見る、変化する消費者像とマーケティング

イノベーション創出のカギは、異分野の知識の組み合わせ

 イノベーションの「使用者」としてのユーザーから、イノベーションの「創造者」へ、ユーザーへの変化が起きています。しかし、ユーザー・イノベーションが、イノベーションの全てとなるわけではありません。大事なことは、 消費者がイノベーションの「受け手」だけでなく、時には「送り手」としても活動するということなのです。

 これは考えてみると、実は当たり前のことです。なぜなら企業で自らの専門知識をもとにイノベーションを起こしている人も、他の分野ではユーザーであるといえるからです。逆にいえば、多くのユーザーは、他の分野の専門知識を持っているといえます。

 さらにいえば、企業でイノベーションを起こしていない人も、ユーザー・イノベーションを起こす可能性がありえるのです。ユーザーとして異なる分野の課題に直面した際に、自らのもつ専門知識が問題解決に役立ち、そこから新しい何かを創造するかもしれないからです。こうした異分野の知識の組み合わせこそが、イノベーション創出のカギとなります。

 先にあげた、シュンペーターも既存にはない組み合わせ(新結合)がイノベーションであると説明しています。ユーザー・イノベーションの代表事例であるマウンテンバイクの開発でも、使用者であり、かつ専門家であるというユーザーの両面性が、イノベーションをもたらしていると、フォン・ヒッペル教授は説明しています。

 「高台から飛び降りることを専門とするマウンテンバイカーで整形外科でもある人は、この両分野からの情報を拠りどころとしたイノベーションを起こそうとするだろう。つまり、ジャンプの着陸時にバイカーの背骨にかかる衝撃を和らげるシート・サスペンションを作り出すかもしれないのだ。(中略)異なる職業を持つ人の場合は(たとえば、この人が航空技術者だとすると)、整形外科医とは異なる情報を拠りどころとする可能性が高く、その結果、別のイノベーションを起こすだろう」(von Hippel 2005 訳 p.124 『民主化するイノベーションの時代』

「送り手」としてのユーザーが市場を動かす時代に

 消費者(ユーザー)像の変化は、もっと私たちの身近なところでも実感することができます。たとえば、近年のSNSでのバズリや炎上もその一つで、ユーザーの発信が、時に企業発信よりもインパクトをもたらしていることの表れです。こうしたユーザーが「送り手」となる領域が、イノベーションにまで広がっていくのです。

 それを裏付けるように、イノベーション調査の世界標準マニュアルであるオスロ・マニュアルのイノベーションの定義(PDF)では、製品が市場導入されているこという要件が外れ、自らの利用だけしかない場合、つまりユーザー・イノベーションを含む定義に変更されました。

 そのため、マーケティングや消費者行動研究において、使用や発信する消費者に留まらず、創造する消費者を捉えた、ユーザー・イノベーションを研究する必要性があります。それを裏付けるように、『Journal of Marketing』、『Journal of Marketing Research』、『Journal of Consumer Research』などのマーケティングの国際的なトップジャーナルでも、多くのユーザー・イノベーションに関連する論文が掲載されています。

次のページ
創造する消費者を理解し、真の「市場志向」を実現する

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
マーケター必読!論文のすすめ連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

西川 英彦(日本マーケティング学会 会長)(ニシカワ ヒデヒコ)

法政大学経営学部・大学院経営学研究科 教授 博士(商学)
1985年ワールド入社、2001年ムジ・ネット取締役、2004年神戸大学大学院経営学研究科 博士課程後期課程修了、2005年立命館大学経営学部准(助)教授、2008年同教授を経て、2010年4月より法政大学経営学部・大学院経営学研究科 教授(現職)。2006年よりブランド・ジャパン企画委員(現職)、2012年より日本マーケティング学会常任理事、2015年より法政大学大学院経営学研究科長、株式会社ユナイテッドアローズ社外取締役、株式会社碩学舍 代表取締役(現職)、マーケティ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2019/08/07 08:00 https://markezine.jp/article/detail/31660

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング