データの可視化が証明した、サービスの価値
ダッシュボードによる視聴者のインサイト分析は、テレビ東京が運営する他のサービスとの相関性の可視化も実現しました。
具体的には、CDP導入以前は、ビジネスパーソン向け有料番組配信サービスである「テレビ東京ビジネスオンデマンド」の有料会員の獲得に、無料見逃し配信の「ネットもテレ東」がどのように貢献しているのかを十分に把握できていませんでした。見逃し配信は無料サービスですが運営には多大なコストがかかります。そのため、サービスの存在意義や立ち位置を強く明文化する必要がありました。
CDPの導入により、「ビジネスオンデマンド」のユーザーデータと「ネットもテレ東」のデータと統合し、「ビジネスオンデマンド」への「ネットもテレ東」の影響をアトリビューション分析できるようになり、状況は一変します。有料会員のチャネル別獲得効率を算出してみると、「ネットもテレ東」経由のユーザー獲得効率が最も高く、自社の見逃し配信サービスが全社のデジタル資産のマネタイズにおいて一定の効果を発揮しているチャネルだということが実証できたのです。
今田氏は、「無料見逃し配信は、広告収入や有料会員の獲得、ブランディングなど様々な成果を同時に達成するための重要な手段だと認識しているが、それを社内で説得力のある数字として実証するのがこれまでは難しかった。今回のプロジェクトでデータの見える化が実現できたことで、サービスの価値を証明することができるようになった」と言います。

データの鮮度と精度はメディア企業の生命線
連載の第1回でも言及していますが、ビジネスや組織に合わせたKPIの設定と、可能なかぎりリアルタイムに把握し、アクションに落とし込める手段を増やしていくことが、企業の価値向上につながっていきます。ユーザーのアクションによって常にデータが更新される世界で生きているメディア企業では、データの鮮度と精度は今後ますます生命線となっていくでしょう。
データが適切に可視化できれば、その瞬間の絶対的な評価ではなく時系列に並べた時の「変化」を見ていくことが可能になります。過去のデータを分析するだけでなく、未来から現在を見つめるような、起こりうる未来を予測しながら意思決定をしていく仕組みに切り替えていくことが必要です。株式の運用をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。
生活者が利用するデバイスやメディアはますます断片化し、データの分散化は進んでいきます。その変化に合わせて企業側も持続可能な体制に移行できるよう、データと密接に絡んだ体制の構築には終わりはありません。次回は別の事例を紹介しながら、メディア企業のデータ活用に迫ります。