ロイヤルカスタマーを特定し、より良い体験を届ける
今回紹介する書籍は、『なぜあの店でもう一度買いたいのか 利益を拡大するロイヤリティプログラムと成功例』。著者の村上勝利氏は、ロイヤリティ・マーケティングの戦略立案からプログラム設計、運営までを担う「ブライアリー・アンド・パートナーズ」で社長兼CEOを務めています。
本書の前半では、ロイヤリティ・マーケティングの基本を解説。その根本にあるのは、新規顧客を増やそうとするのではなく、リピーターとの関係性を強化し、購入頻度や単価の向上を目指す考え方です。
中でも著者は、値引きをインセンティブに他社との差別化を図る難しさを指摘。誰にでも一律にポイントを付与する「ポイントプログラム」と、自社で特定したロイヤルカスタマーにより良い顧客体験を届けることを目的とする「ロイヤリティプログラム」の違いを強調しています。
また、デジタル技術の発展によるアプローチの変化やBtoBビジネスにおける適用にも言及。顧客との関係性構築について、様々な角度から理解することが可能です。
ロイヤリティ醸成のためのSNS活用とは
本書では、ロイヤリティ・マーケティングの成功事例も紹介されており、具体的な実践のイメージをもつことができます。
たとえば米国の若者を中心に支持されている大手アパレルチェーン「エクスプレス」は、購入金額などに応じてポイントがたまるロイヤリティプログラムを導入していますが、このプログラムのSNS活用には、ロイヤリティ・マーケティングの考え方が色濃く反映されています。
エクスプレスの行っているソーシャルマーケティングはロイヤリティ・マーケティングの一部であり、何人に情報が伝わるかはさほど重視していない。大切なことは、エクスプレスに関する情報を他人に共有しようと考える顧客の行動、すなわち顧客エンゲージメント(つながり)だ。
(p.96)
この考えのもと、同プログラムでは、公式情報をリツイートしたり、同社に関するハッシュタグをつけてツイートしてくれる顧客には、フォロワー数に関わらず平等にポイントを付与。顧客は「”お得感”以上に、自分の行為に対してエクスプレスからお墨付きを得られたと感じ、エクスプレスに対してロイヤリティを抱く」といいます。
推進のポイントは、マーケ&情報部門の共通認識
顧客ロイヤリティ醸成の取り組みが進んでいる米国の状況を踏まえ、著者が成功のポイントとして挙げているのが、マーケティング部門と情報戦略部門が共通の認識をもつことです。日本企業でこの土壌が整っているケースは少なく、ロイヤリティ・マーケティングを円滑に導入するために、CDO(最高デジタル責任者)のような、CMOとCIOを兼ねるポジションを用意することを勧めています。
自社のロイヤルカスタマーが誰なのかを見極め、彼らとのエンゲージメントを強化する。その仕組みを構築・運用するには、社内全体はもちろん、広告代理店やコンサルティング会社といった様々なアクターとの協力が欠かせず、簡単に達成できるものではありません。しかし本書を通じて、取り組みの具体的な道筋を理解し、推進の第一歩を踏み出すことができるはずです。