未来の消費社会を考える
本号では、「多型化」というコンセプトで、10年、15年先の未来について少し考えてみました。「多型化」については後述しますが、特集では10年、15年先の未来を見据えてマーケティングの在り方を中心テーマとした4本の論文が掲載されています。
一橋大学の上原渉准教授の論文「ポリモルフィック・マーケティングー情報通信技術による価値創造へのアプローチー」では、「消費のIoT」について考えています。個々の製品やサービスの利用時点における情報収集と分散型の情報処理とが可能になった場合、消費のコンテクストを考慮することでマーケティング活動がどのように多型化するのか、その可能性について考察しています。
博報堂生活総合研究所の酒井崇匡氏の論文「生活者の価値観変化から導く未来の街の4シナリオ」では、大規模な調査データとシナリオ・プランニングの手法に基づき、未来の街のシナリオとして、「鍵のないまち」、「住所のないまち」、「壁のないまち」、「窓のないまち」の4つの街の姿、そこに生まれる100の具体的なライフスタイル・風景を導出しています。

そして、一橋大学の鷲田祐一教授と東京工科大学の七丈直弘教授の論文「モザイク型AI普及社会への「備え」の必要性」では、ホライゾン・スキャニング法という未来洞察ワークショップの手法を用いることで実際に収集されたデータから、AIやIoTの普及に関して、現段階では想定されていない「モザイク型」普及が想定されることを示しています。
最後に、拙稿「製品の正当性のダイナミクス―古楽を事例として―」(共立女子大学の飯島聡太郎講師との共著)では、少し視点を変えて、たとえ多型化したとしてもその内部では消費することの正当性の確立が必要不可欠であることを、雑誌データをテキストマイニングの手法で可視化することで検証しています。
これらの論考はすべて、過去のデータから未来は演繹的に導出することはできないという前提から出発しています。未来学者のリフキンは『限界費用ゼロ社会』の中で、コミュニケーション、エネルギー、ロジスティクスの広範囲な技術革新の大きなうねりが世界中を巻き込んで非連続(非常識)の変化をもたらすことを、過去数百年の歴史を丹念に振り返り説明しています。
リフキンは、来るべき数十年先の未来の社会を考察していますが、現代でも、インターネットにより通信情報網が世界を覆い、モノづくりの仕組みが変わり、巨大な都市が形成され、マーケティングの役割が決定的に重要になり、市場はグローバル化し、そしてまるで生き物が繁殖していくようにコンピュータはどんどん連結しネットワークを構築し、わずか半世紀前にはSFの中だけに存在した知能を持ったロボットが現実のものとなってきています。
しばらく実現しそうもないと思われていた囲碁や将棋でAIが人間を上回ったことは、ある意味で象徴的な出来事でしょう。10年スパンで考えたら、私たちの生活意識や社会環境は劇的に変わっているはずであり、当然、マーケティングも大きな試練に直面するようになっているはずです。