人の行動原理や損得勘定を見つめる

西口:それ、すごくよくわかります。先ほど(※前編)も、福田さんはご経歴などからは極めて理論的で数字重視なイメージがあるのに、意外にも「人を見る」ことを大事にされているのが印象的でしたが、著書の中で噴き出したのは突然「やって見せ 説いて聞かせて やらせてみ 讃めてやらねば 人は動かぬ。」という山本五十六の言葉が出てきたくだりですね。これほどインサイドセールスマネジメントにぴったりな言葉はない、と書かれていました。
僕も、人は決して数字だけでは動かないと思っているので同感なんですが、なぜ科学的なプロセス管理と、方や正反対の生々しい人間性の両軸を大事だと思われるようになったのですか?
福田:これにはいくつもエピソードがあって、たとえば米オラクル時代にまさに「やって見せ~」のとおり、とある上司が部下にアドバイスした上で、彼の名前で顧客に電話をして見事に商談化するさまを見せていて衝撃を受けましたね。
同時に、これは前述の「現場に入る」という話にも通じますが、そのインサイドセールス部門で、あるときマーケのリード獲得も順調、インサイドセールスの商談化件数も目標達成、だが売上未達という事態がありました。当時、部門は全体で数百人、それを束ねる部門長は常にデスク業務でしたが、おそらく数字から仮説を立てて、双方にヒアリングを始めたんです。
西口:数字の裏側を探った。
福田:はい。彼の仮説は、インサイドセールスと営業が仲が良く、結託しているんじゃないかと。インサイドセールスは商談化の件数で評価されますが、営業は売上額なので、商談化後に失注となっても大きな痛手にはならない。なので、その辺をなあなあでごまかしていたわけです。
推理小説を読むような経営の醍醐味
西口:それは、いくら数字を分析してもわからないですね。生身の人間の心理まで推察していたから、そういう仮説を立てられ、事実を突き止められた。
そうした事例は、現在の社内教育でも共有したりしているんですか? というのは、これもある種の顧客視点というか、相手の立場で損得や心理を捉えないとつかめないので、売上目標に向かって科学的に詰めていくのとは対極にあることですよね。それを重視しながらも、一方で相手の人間を見るという発想の切り替えが必要なので、体得してもらうのはかなり難しいと思って。
福田:そうですね、もちろん折に触れ話はしていますが、やはり体験しないと実感できないことなんだろうとも思います。私も実際、そうでしたし。好調なときこそ組織を拡大すべきだとか、ただしすぐには成果が出ないとか、私もたくさん上司のアドバイスを聞き流しては痛い目に遭ってきました。
西口:僕も同じですね、失敗して初めてわかることばかりです。ただ、どんな経営者も割と紆余曲折して今があるはずなのに、経営側になった途端に現場の細部が見えなくなる方も多い気がします。福田さんがそこを当たり前のようにクリアされているのは、どこに秘訣があるんでしょうか?
福田:そうですね……秘訣なのかはわかりませんが、私は昔からずっと、今起きていることを知る過程がいちばん楽しいんですね。推理小説みたいに、数字や検討材料からアタリをつけて、仮説を立てて分け入って、だんだん予想通りに像が結ばれていくときが最もモチベーションが上がるんです。
会議でも、「この現場で今何が起こっているのか」を言葉の水面下に見ようとしていると、生きた経営をしている感覚がありますね。あ、今の建前だな、とか、すぐわかります。
西口:怖い(笑)。でも僕もそうですね、今度はそんな心理的な話も掘り下げたいです。今日はありがとうございました!