企業価値の3つの要素
企業価値の話に戻しますが、「企業価値」とは何によって決定されるのでしょうか。「企業価値とは何か?」と尋ねると、「ヒト・モノ・カネ・情報」と答える人もいれば、「将来キャッシュフローを現在価値で割り戻した価値の総和」と答える人もいるでしょう。筆者が企業価値の説明を求められたときは、図表1の3つの要素で分類し、「企業価値とは、ある作家によって描かれた一枚の絵画の価格のようなもの。企業の価値評価の値づけのされ方はアートだ」と答えています。

絵画は一般的にオークションに出品される段階や、どこかのご自宅の壁にかかっている段階では、おおよその相場はわかりますが、明確な答えはわかりません。必要な人には高く評価されますし、過少に安く買いたたかれているケースもあります。
これは企業の場合も同じです。資金調達のタイミングで値段が付いたり、売却や上場したりする瞬間に、売り手と買い手(場合によっては、証券市場や証券会社)が合意する価格がつけられるときに初めて値段が決まります。企業の価値は、「その企業のビジネスは旬なのか」「儲かっているのか」「経営チームはイケてるのか」「今後の成長余地がまだありそうなのか」「何を目指しているのか」など、様々な要素によって異なってきます。すなわち、買う人や売る人が持っている主観的判断により合意形成された取引価格が企業のバリュエーション(価値評価)なのです(図表2)。

会社の価値や、製品のすばらしさを第三者に正確に伝えるためには、やはり何かしらの“クリエイティブ”が必要です。それは、芸能人を起用した動画でもよいでしょうし、細かく作り込まれた一枚のExcelシートでもよいのかもしれません。その企業価値をわかりやすく、端的に相手に示すために、動画や図表などの何らかのクリエイティブに転換する必要があります。
精緻なプレゼンテーションを作り上げることが決して主になってはいけませんが、企業価値をわかりやすく表現する手段としてのプレゼン資料を作り上げることは、企業価値の説明手段として不可欠で、非常に重要な役割を示します。
デザインで企業価値の評価額を押し上げる
世の中には、売上も利益も低いにもかかわらず、1,000億円近い時価総額の付いているバイオ系新薬の開発企業や、毎年コンスタントに数百億円の利益を叩き出しているにもかかわらず、時価総額がめっきり低い企業も存在します。その差は、一体何なのでしょうか。仮に、すべての上場企業の経営者が株価を上げておきたいと考えている前提の場合、市場で評価されていない企業のプレゼンスに何が足りていないのでしょうか。
IR活動の部分においては、最大の原因の一つとして、「成長戦略」を、企業の未来を、しっかりと描けていないということがあります。足元は大赤字であっても、株価が急上昇する上場企業もたくさんあります。当然、本業のビジネスの業績も大きく関係しますが、企業の成長をビジョナリーなデザインに落とし込めているかという点に、大きな差があるのではないでしょうか。上場企業の場合、わずか30枚の紙芝居の出来栄え次第で、企業価値が1,000億円前後することもあるのです。