ディープラーニングがリテール市場に与えるインパクト
シンプルに捉えることができるディープラーニングだが、それがもたらすであろうインパクトは簡単には予測できないかもしれない。
隠れ層が2層以上あれば「ディープ」と呼ばれるようだが、実際に使われるディープラーニングモデルの隠れ層は数百に上る。隠れ層が増えれば増えるほど、精度が上がると言われているためだ。ただし、ディープラーニングモデルの学習には、機械学習以上のデータが必要で、またデータと隠れ層が増えた分の計算も増えることになり、制約がないわけではない。
しかし、近年膨大なデータが生み出されているという事実、そしてGPUの進化にともなう並列処理速度の向上によって、ディープラーニングのポテンシャルを引き出す環境が整ってきている。これによって、ディープラーニングモデルの開発から実用化までのスピードが大幅に短縮され、リテールを含め様々な産業での実用化・活用が加速しようとしているのだ。
以下では、ディープラーニングを活用し、リテール産業のディスラプトを狙う海外の注目スタートアップを紹介したい。
ディープラーニングを活用したものの中でも、実用レベルに到達しているのが画像認識。適切なデータセットを用意できれば、100%に近い精度で物体を認識することができる。
シリコンバレーのMashginは、ディープラーニング手法を活用したスマートレジカウンターを開発するスタートアップだ。カウンターに商品を乗せるだけで、3次元カメラが商品を認識し、客はクレジットカードをスワイプするだけで支払いを済ませることができる。
リテールや飲食において顧客体験を重要視する風潮が強まっているが、レジ前に行列が発生し、客をイライラさせてしまうことは今でもよく起こっている。レジ前の待ち時間は、客だけでなく、店にとっても損失となる。世界中で起こっている待ち時間を計算すると膨大な時間になるであろうことは想像に難くない。Mashginのソリューションは一見地味に見えるが、世界中の待ち時間による損失を考慮すると、これがもたらすインパクトは計り知れないものになるだろう。
ニュージーランド発のIMAGRもディープラーニングを活用し、店舗における待ち時間の短縮を目指すスタートアップ。同社が開発しているのは、スマートショッピングカート。カートに商品を入れると、その商品を認識、スマホと連動するようになっており、カート内にある商品分の支払いはスマホで済ますことができる。レジを通る必要がなくなり、客・店の待ち時間の損失を解消することが期待される。
画像認識精度の大幅な向上で、検索のあり方も大きく変わる可能性が見えてきている。カリフォルニア発のスタートアップGoFind.AIが開発しているのは、撮影した写真と同じようなスタイルのファッションをAIが探し出し、それを購入できるECサイトを表示する次世代の検索ソリューションだ。文字による検索から画像による検索にシフトする未来を予期させるソリューションと言えるだろう。
画像認識だけでなく、音声認識や機械翻訳の分野でもディープラーニングの活用による躍進が起こっている。冒頭で紹介したように、ほとんどの企業はAI導入に積極的な姿勢を見せている状況だ。リテール分野のAIシフトはいつ起こるのか、その動向から目が離せない。
