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リテール分野のAI普及を探る

 「機械学習」や「ディープラーニング」といったバズワードの広がりを背景に、世界的にリテール分野におけるAI導入が盛り上がりの様相を呈している。一方で、AIの真のポテンシャルを引き出すためには、研究者やエンジニアだけでなく、様々なプレーヤーのAIに対する理解の深化が求められる。「機械学習」と「ディープラーニング」を切り口として、その正体と可能性に迫ってみたい。

※本記事は、2019年10月25日刊行の定期誌『MarkeZine』46号に掲載したものです。

 様々な産業におけるAI活用への期待が高まっている。リテール産業も例外ではなく、AI施策の導入を検討する企業は急速に増えている。

 デジタル分野を専門とするリサーチ会社Juniper Researchの推計によると、グローバルリテールブランドのAI投資額は2018年に20億ドル(約2,200億円)だったが、2022年には73億ドル(約8,000億円)に達する見込みだ。

 アーンスト・アンド・ヤング(EY)が米国企業幹部を対象に行ったAI意識調査でも、楽観的かつ強気なセンティメントが表れている。同調査によると、米国企業経営層の85%がAIに対し肯定的な印象を持ち、87%が2019年内に投資を実施する計画があると回答している。

 AI投資の加速が見込まれるが、これによって産業・職種にかかわらずビジネス環境が大きく変化していくことになるはずだ。リテール産業におけるマーケティングもその影響を大きく受けるのは間違いないだろう。AI活用が本格化したとき、何が起こるのか。その変化を想定し、AI時代のマーケティングを模索する必要があると言える。

 AI活用が本格化した世界とはどのような世界なのか。マーケターとしてどのような準備をすべきなのか。様々な対策・対応が考えられるが、変化の本質を見極める上では「そもそも『AI』とはなんなのか」ということを知ることが重要になると考えられる。

 AIという言葉が広く使われるようになってまだ数年しか経っていないため、また「ブラックボックス」として説明されることが多く、過剰な期待や懸念を生み出すケースも少なくないためだ。AIを知れば、何ができて、何ができないのかを前提に、自社のマーケティングではどうAIを扱うべきなのかが見えてくるはず。それによってAIのポテンシャルをフルに発揮できるようになるのではないだろうか。

 AIを知るカギは、同じくバズワードとなっている「機械学習」と「ディープラーニング」を知ることにあると言える。これらの正体を知り、これらを活用した海外の先端事例を知ることで、変化への対応力を高めることができるはずだ。

「ブラックボックス」を開けてみる必要性

 新聞やテレビなど様々なメディアに取り上げられ、注目を集めている「ディープラーニング」。自動運転技術や自動翻訳などに活用されているとして、広く一般にも浸透している言葉となっている。

 一方、研究者やエンジニアを除いて、そのメカニズムの詳細はあまり知られていないのが現状だ。このためディープラーニングのすごさのみが強調され、独り歩きし、過剰な期待や技術的失業などの懸念を生み出す要因にもなっていると言える。

 ディープラーニングという言葉が広く一般に知られるきっかけとなったのが、2012年に開催された画像認識コンテストILSVRCだ。このコンテストのあるチームがディープラーニングの手法を用い、2位に大差を付けて優勝。このとき使われたのが「Convolutional Neural Network(畳み込みニューラルネットワーク=CNN)」と呼ばれるディープラーニングのいち手法。このため、ディープラーニングの説明には、CNNが例として用いられることが多い。

 このCNNを含めディープラーニングの説明には、難解な数式やイラストが登場し、ほとんどの人はこれを見て理解することを諦めてしまうようだ。しかし、ディープラーニングが登場した背景・歴史をさかのぼってみると、AI研究を広い視野で捉えられ、その文脈でディープラーニングのメカニズムや重要性を知ることができる。

 まず重要なのは、ディープラーニングが機械学習研究の中で登場・進化した手法であるという事実だ。機械学習とディープラーニングはセットになって語られることが多いが、機械学習のほうが広いコンセプトであり、ディープラーニングはそのサブセットとなるコンセプトなのだ。

 このため、ディープラーニングを理解するためには、機械学習の基本を知ることが大きな助けとなる。

 機械学習とは、予測や分類などインプットからアウトプットを返すコンピュータアルゴリズムを研究する学問分野。コンピュータの振る舞いは、人間の手でプログラムされたものではなく、データの学習を通じて規定される。

 近代機械学習の歴史は1950年代にさかのぼることができるが、現代のようにデータドリブン・アプローチが主流になったのは1990年代に入ってから。ディープラーニングの基になるニューラルネットワークの研究が始まったのもこの頃と言われている。

 機械学習においても複雑な数式やイラストが用いられることがあるが、基本はシンプルだ。機械学習の学習方法は、大きく教師あり学習、教師なし学習、強化学習の3つに分かれるが、予測や分類で実用されることが増えている教師あり学習のプロセスを見ると、イメージがつかみやすい。

 教師あり学習では、ラベル付きのデータを学習させ、コンピュータに適切なモデルを見つけさせる。たとえば、犬と猫を分類するモデルの場合、犬というラベルの付いたデータと猫というラベルの付いたデータを学習させ、それらをうまく分類できるモデルの導出を狙う。

 この学習とは具体的にどのようなプロセスなのか。教師あり学習・分類問題において単純化すると、機械学習モデルとはインプットからアウトプットを返す関数であり、学習とはこの関数を微分して、最適解を求めるプロセスのことと言えるのだ。ただし関数は1つではなく、合成関数となっており、それらを微分するために数式にすると複雑に見えてしまう。

 データを入力し、複数の関数を通してアウトプットを出す。これは別の呼び方では、入力層、隠れ層、出力層と表現され、機械学習の基本的な構造となっている。一般的にディープラーニングは、この隠れ層が2層以上になったモデルのことを指すとされている。つまり、基本構造は機械学習であり、内部プロセスが増えたものがディープラーニングと呼ばれているのだ。機械学習のサブセットと言われる所以である。

ディープラーニングモデル(米国科学アカデミー紀要より)https://www.pnas.org/content/116/4/1074
ディープラーニングモデル(米国科学アカデミー紀要より)
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この記事の著者

細谷 元(Livit)(ホソヤ ゲン)

シンガポールを拠点にフィンテックやドローンなど先端テクノロジーに関する情報を実践を通して発信。現地ネットワークを生かしアジア新興国のリアルを伝える。Livit Singapore CTO。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/25 14:30 https://markezine.jp/article/detail/32231

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