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ブロックチェーンの現在地は“2010年のモバイルアプリ” 実装を進めるベンダーが語る広告取引の未来

ブロックチェーンを用いた広告取引、プロトタイプを来年公開へ

――Kochavaさんは現在、ブロックチェーンや暗号化技術にも着目しているそうですが、詳しく聞かせていただけますか。

Manning:ブロックチェーンは、管理者が存在しない分散型ネットワークを可能にするもので、様々なビジネスの既存システムを破壊すると考えられています。デジタル広告の取引については、脱中央集権化によって透明性を高め、信頼性を担保できるようになる可能性があります

 現在の市場はいくつかの巨大プラットフォーマーや数千のベンダーで構成されていますが、それぞれが自社のネットワークを中心とした、中央集権的な絵を描いています。どのシステムも互いに対話することがなく、サイロ化されていますよね。ブロックチェーンはこの構造を変える可能性をもっているのです。

 また、取引システム全体がブロックチェーン台帳と統合されている場合、すべての取引が追跡可能になります。各ブランドの広告が、どのサイトやアプリに掲載されているのかを知ることができるのです。こうしたトレーサビリティは信頼を生み出します。信頼性が担保されることで、企業はデジタル広告にもっとお金を使うようになるでしょう。取引記録の改ざんが事実上不可能という点も大きなポイントです。

現在の中央集権的な広告取引の概念図(上)とオープンで脱中央集権化された広告取引(下)
現在の中央集権的な広告取引の概念図(上)と
オープンで脱中央集権化された広告取引(下)

――ブロックチェーンを活用した広告取引は、どのような流れで行われるのでしょうか。

Manning:私たちが構築したXCHNG(エクスチェンジ)というシステムについて説明します。まず、XCHNGはオープンソースのため、ユーザーはプラットフォームの利用料を支払う必要はありません。

 トランザクションの流れとしては、在庫のオファーを行ったパブリッシャーと買い付けのオファーを行った広告主がXCHNGを介してマッチングされます。それから他の参加者がトランザクションを承認します。特定の管理者だけでなく、ネットワーク参加者のすべての合意形成が必要になるのです。

 その後パブリッシャーは、マイニングネットワークにリクエストを提出し、マイナーがオーダーを見つけ、トランザクションを完了させます。完了したトランザクションは、変更不可能な台帳であるチェーンに書き込まれます。

 XCHNGは現在、取引の基盤となる高速のブロックチェーンを構築したところです。デジタル広告では1秒間に数百万件ものトランザクション発生するため、高速でなければなりません。さらに、実際に取引を行うためのプロトタイプも構築していて、来年初めにはベータ版としてクライアントに提供する予定です。

――ネットワーク参加者の課金は不要というお話がありましたが、どのように収益化していくのでしょうか。

Manning:ユーザーはトランザクションが発生した際にその料金と、関連するサービス料金を支払います。ビジネスモデルは、ガスや電気といったインフラと似ています。私たちは流通のパイプラインを構築したところで、今後、ブロックチェーン上のトランザクションを計測できるメーターを提供することで、収益化していきます。

 私たちは現在も、広告取引の計測・分析を通じてクライアントを支援しているので、会社としての事業の軸が変わることはありません。

ブロックチェーンの現在地は“2010年頃のモバイルアプリ”

――アドテク業界のブロックチェーン実装は、これから加速していくのでしょうか。

Manning:ブロックチェーンの技術はまだ初期段階です。今日のブロックチェーンは、ちょうど2010年頃のモバイルアプリといったところでしょうか

 したがって、ブロックチェーンに関するビジネスは今日、明日の戦略ではなく、長い目で見て取り組むものだと認識しています。当社は、従来のネットワークを利用している顧客にも、ブロックチェーン上の顧客にもアトリビューション分析を提供することで、広告主のマーケティングをより効率的にしたいと考えています。

 もうひとつの問題は、ブロックチェーンのコミュニティでは、技術者とビジネスマンの対話が難しいことです。ブロックチェーン技術者は、ビジネスの仕組みがわからない。反対に、ビジネスマンはブロックチェーンの複雑な技術がわからない。

 ブロックチェーンが業界を変えていくには、マーケターが複雑な技術は不要で、普段使っているコードを使いながら、その恩恵を受けられるようにする必要があります。

――ブロックチェーンの実装を進めていく上で、注目しているトピックはありますか。

Manning:今後数年で、エンドユーザーのConsent(合意)”がキーワードになるでしょう。昨年から今年にかけて、GDPRをはじめ世界各地のプライバシーの規制が変更されています。日本は少し状況が違うかもしれませんが、米国は権利に関する訴訟が頻繁に起きる国ですので、リスクが高まっています。

 当社でも、XCHNGがそうした規制を遵守していることを確認した上で、本格的な運用を行っていきます。プライバシーを第一優先にすることが、クライアントにブロックチェーンに参入してもらう重要な方法です。また広告主側も、国ごと、米国の場合は州ごとの規制に合わせて設定を変更しなければなりません。これは、骨の折れる作業です。当社では、こうした管理を一元化できるよう進めています。

――データ提供に関する同意は、業界全体で大きな課題となっていると感じます。

Manning:そうですね。ユーザーからの情報提供は、ターゲティングを行うために非常に重要ですが、私は今後5年以内に、エンドユーザーから同意を得る方法に関して、非常に強力な動きがあると見ています

 たとえば、一ヵ所の設定ですべてのアプリ・Webサイトについて同意内容を制御できるようなシステムができるのではないでしょうか。数十、数百のアプリやWebサイトごとに設定を変更することは困難で、現実的ではありません。エンドユーザーが一つのシステム上で操作することができるような、より簡略化されたシステムが望まれます。

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この記事の著者

蓼沼 阿由子(編集部)(タデヌマ アユコ)

東北大学卒業後、テレビ局の報道部にてニュース番組の取材・制作に従事。その後MarkeZine編集部にてWeb・定期誌の記事制作、イベント・講座の企画等を担当。Voicy「耳から学ぶマーケティング」プロジェクト担当。修士(学術)。東京大学大学院学際情報学府修士課程在学中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/11/27 08:00 https://markezine.jp/article/detail/32260

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