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MarkeZine Day 2025 Retail

ニューロマーケティングでさらに深める顧客理解

大胆なパッケージ刷新の決め手は、脳波測定×アイトラッキング!アサヒビール「もぎたて」が仮説を検証

脳波測定×アイトラッキングで無意識の反応を把握

――具体的に、どのような調査を実施されたのでしょうか。

坂本:今回は脳波測定とアイトラッキングを組み合わせ、複数名の参加者に実際の缶(以下、実缶)とコンピューターに映した缶の画像を見ていただき、脳波と視線を計測しました。

 パッケージ評価でまず知りたいのは「お客様はパッケージのどの部分をよく見ているのか」ということだと思います。それがわかると、注目されていた部分をより目立たせるなど、次のアクションにつなげることができますよね。

 同時に「それを見ているときに、どう感じているのか」も把握することで、より深い理解が可能になります。今回はアイトラッキング単体の調査では見えてこない、「デザインがポジティブに捉えられているのか、そうではないのか」という点をクリアにすることを目指していました。

実缶での調査風景
実缶での調査風景

――調査の設計・準備において、特に苦労した点はありましたか。

坂本:「ある刺激に対する反応を見る」というのがニューロリサーチの基本ですので、刺激の種類が多くなってしまうと、出てきた反応がどの刺激によるものなのかわからなくなってしまいます

 そのため音や光などの条件が一定の環境を用意し、余計な刺激を発生させないことが必要です。本当は他の商品とともに陳列棚に置いた状態で実験できることが望ましいのですが、こうした事情から、今回は机に一つの缶を置いた状態で計測しました。

宮广:実缶で調査することにこだわったのも、大変だった点です。ニューロリサーチでは刺激を与えるタイミングのずれが結果に大きく影響するので、誤差が出ないよう、通常はコンピューター上の画像を見せて計測するとうかがっていました。

 しかし缶は立体的で曲線のある形状をしており、画像で見た場合とは印象が異なります。光のあたり方によって色の出方も変わるため、なんとか実缶で調べることはできないかと相談させていただきました。

実缶を用いた調査(左)と、視線計測モニタリングソフトウェアの画像を用いた調査(右)を実施
実缶を用いた調査(左)と、視線計測モニタリングソフトウェアの画像を用いた調査(右)を実施

坂本:これはチャレンジングでしたね。脳波と視線、それぞれの計測を開始する時間と、参加者に缶を見せるタイミングをすべて揃えるというのは本当に大変でした。

 また缶を設置する場所が少しでもずれていると、注目される箇所が変わってしまう可能性も出てきてしまいます。今回は念のため実缶と画像、二通りの調査を行い、傾向にずれがないことを確認しました。

ディスカッションを重ねながら、数値を解釈

――調査から明らかになった結果について教えてください。ニューロリサーチでは結果の解釈が鍵になるとうかがいますが、今回のプロジェクトではいかがでしたか。

坂本:まず脳波測定に関しては、「覚醒・注意・関心」と「好意」を表す指標から合成変数を作り、二つのパッケージのどちらがより高い数値を出したか定量化しました。その数字を視線のデータと掛け合わせ、それぞれのタイミングでの数値を確認していきました。

宮广:今回計測を行った一つ目の案は、「もぎたて」のロゴを大きくして目立たせ、鮮度を伝える訴求ポイント「収穫後24時間以内搾汁」をアイコン化したもの。二つ目の案はロゴよりも「収穫後24時間以内搾汁」を目立たせ、さらに、“果実をもいだ感”も出すために緑色の木を配置したものでした。

 調査の結果、脳波の平均合成得点が高かったのは二つ目の案。参加者は、缶の上部に書かれた「24」という表示に強い魅力を感じていたことが、脳波と視線の掛け合わせから明らかになったのです

(左)脳波の平均合成得点。案2で高い傾向が見られた。(右)脳波×視線のヒートマップ。参加者は、案2の「24」という数字に高い魅力を感じていた。
(左)脳波の平均合成得点。案2で高い傾向が見られた。
(右)脳波×視線のヒートマップ。参加者は、案2の「24」という表示に高い魅力を感じていた。

――すると、数値を出した後、すぐにパッケージデザインを決定することができたのでしょうか。

宮广:いえ、数値化を終えた後もディスカッションを重ねました。「この数値から、こういう結論を導くことができるのでしょうか」という疑問に対して、坂本さんたちに「それは言い過ぎかもしれません」「他の影響もあるかもしれません」などと見解を示していただきましたね。

坂本:今回は、多くのデザイン案から絞り込まれた二つの案についてテストしたので、両方ともある程度良い評価が出てくることは間違いなく、「差」と見なして良いのか微妙な点もありました。そのため、数値の解釈はより慎重に進める必要がありました。

宮广:最終的な判断の決め手となったのは、セグメント別の調査結果です。カテゴリー全体のユーザーと「もぎたて」ユーザー、競合ユーザーに分けて数値を見たときに、どのグループからも一定の支持を得ていた二つ目の案を採用することにしました。

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この記事の著者

蓼沼 阿由子(編集部)(タデヌマ アユコ)

東北大学卒業後、テレビ局の報道部にてニュース番組の取材・制作に従事。その後MarkeZine編集部にてWeb・定期誌の記事制作、イベント・講座の企画等を担当。Voicy「耳から学ぶマーケティング」プロジェクト担当。修士(学術)。東京大学大学院学際情報学府修士課程在学中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/11/20 08:00 https://markezine.jp/article/detail/32303

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