転職回数よりも「理由」がますます重要に
――今回は、MarkeZineが実施した『マーケターの転職に関する実態調査(調査概要は記事末尾に記載)』を基に、マーケターの転職支援を行っているクリーク・アンド・リバー社の成岡さんにお話をうかがいます。
まず、転職回数に関する結果を見てみると、「転職経験なし」は2割と少数派でした。一方、複数回の転職経験がある人は全体の6割近くに上っています。転職回数の多さは選考上でネックになると言われることもありますが、現在はそうした状況も変化しているのでしょうか。
成岡:近年、デジタルマーケターに関わらず、転職回数を気にする企業は少なくなってきました。その分、転職理由や経験を重視する企業は多いですね。そこに説得力や一貫性があれば、転職回数で判断されることはそれほどありません。
――どのような転職理由ですと、説得力があるのでしょうか。
成岡:たとえば「職場の人間関係が不満」というケースで、ただ「上司と合わなかった」と説明するだけでは納得してもらえないでしょう。もう一段階掘り下げて、「新しい施策に取り組めるよう上司に働きかけたが、叶えられなかった」「チームで仕事を進められる環境ではなかった」など、その不満が何に対するものだったのかを、具体的なエピソードや業務レベルまで落とし込み、たとえば「新しい施策に取り組みたい」「チームで仕事を進めたい」など前向きに伝えることが大切です。
目的・理由は徹底的に掘り下げるべき
――転職を重ねながら、キャリアアップを続けていくコツを教えてください。
成岡:転職すること自体が目的になっている人は、キャリアに行き詰まってしまいがちです。転職はあくまでも、より良いキャリアを築くための「手段」なので、自分がこれから先どうなりたいのかを、できるだけ具体的に考えたほうが良いと思います。
たとえば将来CMOになることを目指している場合、「なぜCMOになりたいのか」という思いの本質を掘り下げたほうが良いでしょう。CMOになるためには今の自分にはどんなスキルが足りないのか、それを補うためにどんな経験を積むべきなのか。転職の目的や理由をそこまで掘り下げることができていれば、実際の面接でも転職理由や志望理由をスムーズに答えられるはずです。
――若手のうちに先の目標を明確にするのは難しそうですが、何か方法はありますか。
成岡:そうですね。定期的に、自分がやりたいことの本質を考える時間を作ることが大切です。
人生100年時代、まだまだ長く働き続けるわけですから、目指すゴールは変わってもいいと思います。様々なライフイベントを経験して、キャリアを重ねていくにつれ「バリバリと仕事をするよりも、家族との時間を大切にしたい」と感じる時期も出てくるでしょう。
しかし、少なくとも現時点で何をしたいのか、将来どうなりたいのかということは、常に整理してアップデートしておくことが大切です。そのためにも、自分自身がどんなことにやりがいを感じるのかという「モチベーションの源泉」を知っておくと役に立つと思います。
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20代でも6割が「転職で年収アップ」
――次は「年収」についてうかがいます。調査では、20代でも6割以上のマーケターが「転職によって年収が上がった」と答えています。若くして年収アップが可能という状況なのですね。
成岡:20代の場合、事業会社から事業会社へ転職する場合、もしくは広告代理店・マーケティング支援会社から同様の会社へ転職する場合、年収がアップするケースがほとんどです。
デジタルマーケターの需要は拡大しており、大企業から中小企業やスタートアップまで深刻な人材不足にあえいでいます。各社、より高い年収を提示して、良い人材を獲得しようという傾向が強くなっていますね。
――デジタルマーケターのニーズが高まっている背景を教えてください。
成岡:以前と比べてデジタルマーケティングのツールやテクノロジーが普及し、できることが増えたのが大きな要因の一つです。マーケターに任される業務が細分化し、新しいポジションも増えています。
デジタルマーケティングの業務と言っても、大企業ではCRM担当、サービス企画担当など、より専門的な仕事に専念してもらう傾向が強くなっています。これまで一人が担っていた業務を、二つのポジション、三つのポジションに細分化し、専門的なスキルをもつスペシャリストに取り組んでもらうようになっているのです。
一方、スタートアップでは、事業をグロースさせるフェーズで、経験とスキルのあるマーケターを採用したいと考える傾向が強いです。それまで役員や他の職種のメンバーが兼務していたマーケティング業務を、「一人目のマーケター」を採用して担ってもらうことで、専門的な知見を取り入れようとしています。
――40代以降の結果を見ると、回答に少しばらつきが出ています。年齢を重ねても、転職で年収を上げていく手段はあるのでしょうか。
成岡:40代以降の転職は、20代、30代と違い、スキルと実績でシビアに評価されます。これまで大手の事業会社でキャリアを積んできた方が、規模の大きくないベンチャーやスタートアップに一人目のマーケターとしてジョインし、裁量権を発揮する仕事に就く場合、年収が大幅に上がる可能性はあるでしょう。また、英語力がある方であれば、外資系のテックジャイアントへ転職すると年収が上がりやすいですね。
別の方法として、マーケターの業務から「越境して」仕事をしてきた経験が評価されることもあります。マーケターの知見を生かして、事業作りや組織作りまで経験しているとベストです。
今はもったいない!エージェントが転職を止めるケースとは?
――ここまで、転職の回数や年収に関して、市場の動向を教えていただきました。一方で、「慎重になったほうが良い」とアドバイスされるケースもあるのでしょうか。
成岡:一つは短期離職です。近年では、1年~1年半で自分のキャリアに必要な経験を積んで次の職場へ移る方も増えているため、一概には言えないのですが、やはり特別な事情がなく1年以内で転職してしまうのは、時期尚早という場合が多いです。
また、現在の環境でもうひと踏ん張りすれば、転職市場における価値を高められる場合も、考え直してみては、とお伝えすることがあります。多いのは「現場のマーケターだけれど、マネジメントを任されてしまいそう。自分には向いていない」と転職を視野に入れるケース。マネジメント経験があれば、転職市場における価値は非常に高くなるため、より高い役職や年収を提示される可能性も高くなります。そういう場合は、今任されていることを、一度全力でやりきってみてほしいと思います。
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マーケターの「定義バラバラ問題」をどうするか?
――調査の自由記述では、「マーケターという職種の定義が難しい」という意見が散見されました。企業側でも、マッチングの難しさは課題となっているのでしょうか。
マーケターという職種の定義の曖昧さに関する意見(調査より抜粋)
・マーケティングの捉え方(戦略から実行まで)が各々違いすぎて事業会社のマーケティングとうまくフィットするのは一種の賭けみたいな形となっている。
・「マーケター」と名の付く職種が増えすぎたことにより職種と企業の期待役割のズレが発生している。
・マーケティングの領域が広く、また細分化してきていることで、転職先の期待値と自分の得意領域、希望領域に、領域のギャップがあることに気づきづらいこと。
成岡:そうですね。「マーケター」と言っても、一つのサービスやプロダクトのマーケティングを一気通貫で見ている人もいれば、ツールの運用だけを担当している人もいますので、定義はとても難しいと思います。
企業側も「マーケターを採用すれば、とりあえず売り上げを上げてくれるはず」と、あたかもマーケティングが錬金術であるかのように捉えてしまっていたり、入社するマーケターにどんなスキルを求め、どんな仕事をしてほしいのか曖昧なまま、求人を出していたりということがあります。
マーケターの仕事内容やポジションが細分化しているトレンドと、企業側が採用するマーケターに何をしてほしいのか不明瞭であること、この二つの要素が重なってミスマッチが増えている印象です。
後悔しない転職のために質問すべきことは?
――企業にとっても大変な状況なのですね。ミスマッチを防ぐために、転職希望者はどんなことができるでしょうか。
成岡:面接で、マーケティング施策をどう決めていくのか、すなわち「意思決定のフロー」を聞いてみると良いと思います。
それに加えて、入社してまず何を任されるのか確認するのも有効です。マーケターとして入社したはずなのに、実際の業務は制作ディレクションや制作進行というケースもよく聞きます。入社してから悩む前に、面接でぶつけてみるのも良いですし、私たち転職エージェントもお手伝いできます。
さらに、内定後に職場見学をさせてもらったり、同じ部署のメンバーとの面談をセッティングしてもらったりすることも、ミスマッチを防ぐために効果的です。私たちがよく行っているのは、マネージャーとして入社する方に、部下となるメンバー全員と会っていただくということです。転職を希望される方も、受け入れる企業側も安心感が増しますよね。
――双方にとって良い結果となるよう、主体的に動くことは重要ですね。最後に、クリーク・アンド・リバー社さんが考える、転職エージェントの役割について聞かせてください。
成岡:転職を希望する方と企業が相互理解を深める手助けをすることが、転職エージェントの一番の役割です。市場の傾向や求められるスキルについて、双方に正しく伝えていきたいと考えています。
特にキャリアに悩んでいるマーケターに対しては、転職市場で何が求められているかを丁寧に伝えながら、個々人の将来的なキャリアに寄り添い、一緒に考えていきます。なかなか聞けない、職場のリアルな実態や業務内容、どんな企業でどんなスキルを積めるのかなどを代わりに確認することもできるので、私たちを積極的に活用してほしいと思います。
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「マーケターの転職に関する実態調査」概要
調査主体:翔泳社 MarkeZine編集部
調査方法:インターネットリサーチ
調査対象:MarkeZine読者 254名
業種別内訳:事業会社137名、広告会社59名、ベンダー23名、パブリッシャー5名、プラットフォーマー13名、フリーランス5名、その他12名
調査期間:2019年7月11日~2019年7月25日
※百分率表示は四捨五入のため丸め計算を行っており、合計が100%とならない場合がある。