2019年の傾向:プラットフォーム化とリテンションシフト
期待のピークを過ぎたあたりの注目の技術をひとつご紹介すると、前述の用語の関係で少しわかりづらいのですが、「顧客の声ソリューション」という技術があります。これは顧客からの質問やSNSの声など、すべてのチャネルからニーズを把握して管理し改善しようというスイート型のソリューションですが、そもそも日本企業にはそういった網羅的、統合的な発想が少なく、浸透するのに時間がかかりそうです。ソリューションを提供するベンダーからは、もっと浸透しているはずだとの意見もあるのですが、なかなか返答に困るところです。
“統合的な発想”と記しましたが、これがひとつの2019年のトレンドを表すキーワードになると分析しています。平たくいうと、これまで顧客向けの技術やツール、業務がばらばらだったものを、まとめて進めようという動きが出てきたと思います。
アナリティクスや人工知能の活用がこの2~3年でだいぶ進んできた代わりに、2019年版で新しいのは、「プラットフォーム化」だと言い表せます。黎明期のいちばん下に「営業エンゲージメント・プラットフォーム」があり、その3つ上に「デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム」があり、さらにその上にCDPがある。プラットフォームがたくさん登場して混乱しがちですが、これらのコンセプトはいずれも「複数の用途をひとつのプラットフォームで統合管理して目的を達成しよう」というものです。目的とは当然、様々なタイプの顧客との様々なチャネルにおけるエンゲージメントの強化です。この動きは、来年以降さらに加速すると見ています。
また、顧客ロイヤルティやCXとの関連性という観点で見ると、今年新たに「サブスクリプション管理」が登場しています。決して、単に毎月の請求や入金を管理する技術だけではなく、顧客と継続的にエンゲージメントを築いていくための技術ですね。CRMを長く調査している立場からすると、顧客と継続的な関係を構築するという当たり前のことが、ようやく業務化されたような印象を持っています。リテンションという言葉は企業目線の言葉で、個人的には好きではないのですが、企業の競争の焦点が新規獲得ではなくリテンションに移っていることがうかがえます。

CXを下支えする「従業員エクスペリエンス」
プラットフォーム化が進んでいるということは、顧客のライフサイクルに応じたエンゲージメントを長期にわたって築き、より良いタイミングでのCXを提供して顧客の信頼を得る、その活動を支援する技術が育ってきたのだと読み解けます。サブスクリプションへのシフトも、長期的にエンゲージメントを築くことへの関心の高まりです。
加えて私が注目しているのは、現在黎明期の中盤に位置する「ワークフォース・エンゲージメント管理」です。これは顧客応対に従事する従業員をサポートする技術で、最近聞かれるようになった、CXならぬ「従業員エクスペリエンス」(EX)という考え方と対になるものです。
考えてみれば当然ですが、もしも店頭でお客様の質問にスタッフが答えられなければ、CXは下がります。そこで最近、たとえば家電量販店などではタブレットで商品使用時の動画などを見られるようにしておき、スタッフがお客様への説明に使えるといった工夫がなされています。良質なCXの実現は、EXの下支えがあってこそ。従業員こそ良質なCXを生み出す最重要のリソースだ、といった考え方が、今CXの議論においてとてもホットになっています。
最後に、CRM技術の発展から見通す、今後の顧客満足やCXにおける展望を3つほど解説します。1つは、EXの話にもつながりますが、会社の中と外との分け隔てがなくなっていくでしょう。ソーシャルメディアで誰もが自由に発信できる時代ですから、従業員の発言を一方的に規制するようなやり方はもはや無意味です。従業員へも生活者へも常にオープンな企業姿勢であることが、顧客からの信頼を得る道だと多くの企業が実感しつつあると思います。社内外の壁がなくなり、同時にEXを重視して従業員のモチベーションを高めなければ良質なCXも実現できない、というのがスタンダードになっていくでしょう。
2つ目は、中盤と重複しますが、サブスクリプション型のビジネスのさらなる発展です。そして3つ目は、たとえばファッションにおける試着のような、これまでは対面で展開されていたサービスがよりデジタル化することです。たとえばAR/VRは、見る・聞く部分を補完しますが、さらにもう少し、五感をフォローしてCXを向上させる技術が発展しそうだと感じています。味覚や嗅覚まではまだ無理そうですが、技術の進化は驚くほど速いですから、注目しています。
新しい技術は、「まだいいか」と見送っているとあっという間に取り残されてしまうので、我々も新技術の動向とともに、何年で成熟するかをなるべく正確に分析するよう今後も努めたいと考えています。