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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』デジタルクリエイティブの作法

Oisixの感動広告を生み出したブランドジャーナリズムとは

ブランドジャーナリズムが反映されたクリエイティブは、売上に寄与する

――ブランドジャーナリズムを踏まえて制作し、手応えを感じたクリエイティブ事例を教えてください。

 直近で特にうまくいったものをご紹介したいと思います。1つ目はタピスタの「選挙に行ったらタピスタ半額キャンペーン」です。タピオカ店の主要顧客は若年層の女性です。彼女たちに関わる社会問題を考えたときに出てきたのが、若年層の投票率が低いという問題でした。一見タピオカとは縁遠いその問題を、解決につなげたらおもしろいのではないかと。

 また、タピオカは爆発的な人気を誇る一方で、ポイ捨てや行列などから来るマナーの悪さが目立ち、社会悪だと思っている人も一定数いました。そんなイメージを覆しつつ、社会問題へのアプローチもできるアイデアとして生まれたのが今回の半額キャンペーンでした。

選挙に行ったらタピスタ半額キャンペーン
選挙に行ったらタピスタ半額キャンペーン

 反響の大きさは予想以上でした。各種メディアに取り上げていただき、SNSで著名人も拡散してくれました。参院選当日は、6店舗で約3,000名の方が半額キャンペーンを利用するなど、投票を促すことにも成功しました。

 2つ目は、Oisixと「クレヨンしんちゃん」がコラボした屋外広告です。「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」などをキャッチコピーにしたポスターを、夏休みを迎えるお母さんたちに向けたエールとして「クレヨンしんちゃん」の舞台である春日部駅に張り出しました。

Oisix「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」のポスター
Oisix「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」のポスター

 夏休みの時期は給食もなく、家にずっと子供がいることで、お母さんの家事の量は増えます。そんなお母さんたちを応援したいというメッセージとともに、この広告には、家事・育児はいまだ母親の役割となってしまっている現状への問題提起を含ませています。

 この交通広告は春日部駅だけにしか掲出していなかったのですが、SNSで大きな広がりを見せました。広告を見て共感した一般の方が写真を撮ってツイートしたところ、その投稿が10万リツイートを超えたんです。

 企業の広告でそこまでリツイートされるクリエイティブってほとんどないと思うんです。そこからTwitterトレンド入りしマスメディア露出も広がり、Oisixの好感度が上昇。売上も伸びたと聞いています。

 得られた露出を広告費換算するとものすごく莫大な予算が必要になります。しかし、今回の施策は交通広告を春日部駅に出したのみです。つまり、ブランドジャーナリズムをうまく機能させると、非常に費用対効果が高くなるんです。

マーケター自身が解決すべき問題を考えよ

――社会問題を捉えて、それに合わせたコミュニケーションを考えるのは、非常に難しいことのように思うのですが、マーケターがそのようなコミュニケーションを考える上で、踏まえておくと良いポイントはあるのでしょうか。

 2つあって、1つはそのブランドがどのような社会文脈と強く紐づくかを明確に捉えることです。たとえばタピオカは、若年層との結びつきが強い。若年層にまつわる課題は何かを考え、選挙の投票率が低いという点に行き着きました。

 Oisixの事例で言えば、家事を担う母親がメインターゲット。家事を楽にすることを目的にサービスを展開しているので、母親にまつわる問題に切り込んでいこうと考えた結果、あのようなアウトプットが生まれました。

 もう1つは、マーケター自身が何を解決したいのかということです。企業のマーケターも、僕らのようなクリエイターも、普段から社会にアンテナを張り、今世の中で何が問題になっているのかを理解しておくべきです。その上で、自分の企業が取り組みたい、もしくは取り組むべき問題を題材に企画を考えてみるのがいいでしょう。解決したいという想いがないと、表層的なクリエイティブしか生まれないし、消費者にも見透かされてしまいます。

――「Fearless Girl」をはじめ、海外では社会問題の解決を目指すクリエイティブの事例が増えているのでしょうか。

 増えていますね。アメリカでは既に主流になっています。カンヌで受賞する作品も、多くがブランドジャーナリズムに近い考えのものになっています。同時に、消費者の意識も変化しています。同じような機能を持つ製品が2つあったとき、どちらがより社会問題の解決に取り組んでいるかを基準に選ぶようになっているんです。

――日本だと、まだそのような意識が浸透していないように思えます。

 そうですね。かなり後れをとっていると思います。昔に比べ、日本企業のカンヌ受賞が減ってきているのは、そういった世界の意識の変化に対応できていないからだと思います。とはいえ、まったくゼロかというとそんなことはありません。SNSを観察していると、ブランドジャーナリズムを意識したクリエイティブは少しずつ増えてきていると思います。

――実際にブランドジャーナリズムに取り組む際に意識しておくべきポイントを教えてください。

 自分たちの商品を売ることと、社会問題の解決を二項対立で考えないようにしてほしいですね。そうではなく、売上と社会問題の解決それぞれに寄与するようなクリエイティブを作ることを意識するべきです。本来、企業は社会をより良くするために存在するもの。事業成長と社会問題の解決を切り離してはいけないはずですから。

――ブランドジャーナリズム以外の部分で、デジタル時代の広告クリエイティブにおいて必要だと思うことはありますか。

 希少性だと思います。SNSがコミュニケーションの中心となった今、いかにSNSで言及されるのかを意識するのは大前提と考えています。そして、SNSで言及されやすいクリエイティブは、自分では体験できないけど情報としておもしろいものであることがほとんどです。近年、屋外広告やリアルイベントなど、オフラインチャネルの価値が見直されているのもそのためです。

 「クレヨンしんちゃん」の交通広告もまさしくそうだと思うんです。春日部駅にしか出していないということは、春日部駅の利用者しか本来であれば実物を見られない。その希少性が、拡散の起爆剤になったのではないかと思います。これは、広告予算を潤沢に用意できないベンチャー企業や中小企業にとってはチャンスだと思いますね。

――最後に、牧野さんの今後の展望を教えてください。

 大げさかもしれませんが、マーケターがノーベル平和賞を受賞するような世界になってほしいし、そのお手伝いができたらと考えています。先ほどもお伝えしましたが、企業が存在しているのは社会をより良くするため。社会をより良くしていくためにマーケターが活動していけば、多くの人が平和に過ごせる状態に行き着く可能性を秘めています。マーケターや広告クリエイティブを担当する方の多くが、そういった意識のもと仕事をするようになると、世界から認められるようなクリエイティブが数多く生まれてくると思います。

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この記事の著者

水落 絵理香(ミズオチ エリカ)

フリーライター。CMSの新規営業、マーケティング系メディアのライター・編集を経て独立。関心領域はWebマーケティング、サイバーセキュリティ、AI・VR・ARなどの最新テクノロジー。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

道上 飛翔(編集部)(ミチカミ ツバサ)

1991年生まれ。法政大学社会学部を2014年に卒業後、インターネット専業広告代理店へ入社し営業業務を行う。アドテクノロジーへの知的好奇心から読んでいたMarkeZineをきっかけに、2015年4月に翔泳社へ入社。7月よりMarkeZine編集部にジョインし、下っ端編集者として日々修業した結果、2020年4月より副...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/11/25 15:30 https://markezine.jp/article/detail/32376

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