多様性の時代、属性でひとくくりにする危険
守屋:人々の「あり方」は、本来的な個性を認め多様であることが前提となってきています。それに伴い、「これまでのあり方でいいんだろうか」と疑問を抱いたり、本質を追求したいと考える人が増えています。
広告コミュニケーションで炎上した事例には、作り手による「アンコンシャス・バイアス」が影響しているように思えます。「働く女性は●●だ」や、「女性はこう、男性はこう」、「若手は●●だ」といったように、十把一絡げで、ある属性に対して、「決めつけ」たり、「押しつけ」たりする表現に違和感を抱くという構図がみてとれます。
性別、年齢、国籍、出身地、血液型などの属性でひとくくりにし、「決めつける」メッセージを一方的に「押し付ける」と、人々の自己防衛心を刺激し、批判や炎上につながりやすいと思います。生き方も、あり方も、働き方も、感じ方も、「一人ひとり違う」ということを意識する必要があるのではないでしょうか。

正体は「半径数メートルの中での自己防衛心」
白石:先ほどから「バイアス」という言葉が出てきていますが、ここで改めて、守屋さんがご専門とする「アンコンシャス・バイアス」についてどのようなものか教えていただけますか?
守屋:「アンコンシャス・バイアス」とは、日本語では「無意識の偏見」「無意識の思い込み」「無意識の偏ったものの見方」等と表現されている概念です。認知心理学や行動心理学、生理学など様々な分野でそれぞれに研究がされています。
私たちの脳は、これまでに経験したことや、見聞きしたことに照らし合わせて、あらゆるものを「自分なりに解釈する」という機能を持っています。意識できていることは「氷山の一角」で、「無意識」は私たちの言動、感情、考え方などに大きな影響を与えています。
つまり、「アンコンシャス・バイアス」は誰にでもあるものであり、あることそのものが悪いわけではないのです。問題なのは、「アンコンシャス・バイアス」による「決めつけ」や「押しつけ」の言動が、炎上してしまった広告事例だけでなく、人間関係においても、知らず知らずのうちにまわりを傷つけたり、苦しめたりしてしまうことなのです。
また、「アンコンシャス・バイアス」は、周りだけでなく、「自分自身」に対しても大きな影響を及ぼしています。
白石:なるほど、すると『リアルビューティー スケッチ』が多くの人の心をとらえたのは、無意識のうちに抱いていた自分自身のネガティブなセルフイメージへの気づきを促したことで、精神的欲求を満たし、ストレスから解放したからなのですね。
守屋:そう思います。「アンコンシャス・バイアス」の正体は「自己防衛心」です。傷つきたくないから自分を守ろうとする。結果、知らず知らずのうちに自分にバイアスをかけてしまうという側面もあるように思います。
