ハッシュタグキャンペーンで議論を生む
江端:素晴らしいですね。ところで今回のキャンペーンはターゲットが全方位型にも見えるのですが、意識が高いと言われるミレニアルなどは気にされていますか?
川嵜:はい、20~30代の男女が基本的なターゲットで、彼らが実際にアクションを起こしてくれるようなメッセージングをしています。またCM以外にSNSを使った「#しなきゃなんてない」のハッシュタグキャンペーンで声を上げてもらって議論が生まれるような仕組みも作りました。
江端:なるほど。ところで、川嵜さんはコトラー博士が「ブランド・アクティビズム」を提唱されていらっしゃることはご存知だったのでしょうか?
川嵜:はい、もちろん存じていました。また「ブランド・アクティビズム」という考え方においては、コトラー博士以前にも影響されたクリエイティブがありました。それは、1997年にAppleが行った「Think Different」という広告キャンペーンです。スティーブジョブスがナレーションをし、”Because the people who are crazy enough to think they can change the world, are the ones who do.(自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから)”と述べたあのCMは、まさにブランド・アクティビズムであると思っていて、今回のキャンペーンにおいてもかなり意識していました。
コトラー博士が「ブランド・アクティビズム」について解説した記事はこちらから。
「主張と意義のないブランドは淘汰される」コトラーが語る、ブランド・アクティビズムの重要性」
沸き起こった議論を解決する事業を作る
江端:では、キャンペーンで得られた成果について教えてください。
川嵜:「しなきゃ、なんてない。」は2018年10月に開始したものですが、リーチしたユーザーは3,000万人を超え、設定したブランドの認知や助成認知のKPIはいずれもクリアしています。リブランドして2年の成果としては、非常に良いものと捉えています。
江端:ユーザーがこのキャンペーンを自分ごと化するために、動画を活用したキャンペーンなどは考えられていますか? たとえば今流行っているTikTokなどで音楽付きのテンプレートで流行らせるなど。一時インターネットで広まった“Ice Bucket Challenge”のような現象も期待できるように思うのですが。

川嵜:現在は認知を拡大して議論を沸き起こらせるフェーズですので、そのような動きはしていません。ただ次のフェーズとしては、今回巻き起こった議論の中からまだ顕在化していないけども、解決しなければいけない既成概念をピックアップして、OPEN SWITCHというオープンプラットフォームを通して、新規事業を作っていこうと考えています。
そのため、今回沸き起こった議論についても「こういう“しなきゃ、なんてない”があった」というファクトを、世の中にちゃんと謳っていこうと考えています。
実はIce Bucket Challengeもかなり意識したのですが、あそこまでのムーベメントはなかなか日本では作れないのでは……とも思います。
江端:いや、可能性はあると思いますよ。Ice Bucket Challengeは有名人が指名制で「次は〇〇さん」と複数の相手を指名することで広まっていきました。指名されることが名誉でもありました。日本でもそのような影響力のある人々が実施すれば、「しなきゃ、なんてない。」というメッセージは、社会現象的に拡大する可能性があると思います。
川嵜:狙いたい領域ではありますが、ブランドアクションではないものになってしまう懸念もあるので、ちゃんと考えないといけないですね。