需要が変わるタイミングを逃さず、LTVを最大化
西井:なるほど。事業フェーズごとの体制であれば、導入後も継続的な支援がしやすいですね。効果のある打ち手やサポートの事例も、事業部内で横展開しやすいと思います。
川西:法人のお客様にも、様々な段階があります。起業して1年未満のお客様の課題は、初めての決算で、何をしたらいいのかわからないこと。2年目以降で50名以下のお客様になると、経理担当者が1、2名いらっしゃるものの、人手不足が課題です。
50名以上の規模になると、会計・人事労務などのバックオフィスの構築を、事業戦略・経営戦略のひとつとして考えなくてはなりません。このように、お客様の異なる課題に対応するためには、事業フェーズに合わせた事業部制が適していると今は考えています。
西井:組織のあり方が顧客の事業成長に寄りそっていることが、印象的です。
川西:LTVを最大化させるのが、サブスクリプションの本質です。事業のフェーズが変わるときは、バックオフィスの需要が変わるタイミングですから、このときに離脱されてしまうことのないよう、コミュニケーションを工夫しています。
また、お客様が個人事業主からスタートして、ずっとフリーを使っていただけるようなプロダクト群、料金プランの構成にしていこうと考えています。

西井:お客様に寄りそった製品開発や体制構築の重要性は、BtoBも、BtoCも変わりませんね。
オイシックスも、有機野菜の定期宅配サービスからスタートしましたが、現在はお客様のニーズにより細やかに応えていくために、「サービス進化」と呼ばれるチームが事業開発をしています。
たとえば半調理済みの食材とレシピがセットになったミールキットの「Kit Oisix」は、「忙しくて毎日の献立を考えたり調理をするのが大変。でも安心・安全でおいしい食卓をつくりたい」というニーズから生まれたもの。さらにKit Oisixのお客様から「もう少ししっかり料理をしたい」という声が上がり、「ちゃんとOisix」という、数日間の献立に対応できる食材とレシピのセットもお届けするようになりました。
サービスの良さがわかる機能を徹底的に勧める
西井:続いて、KPIについて教えてください。これまでどんな指標を重視してきたのでしょうか。
川西:年間の収益を表すARR(Annual Recurring Revenue)、チャーン(解約率)などの重要指標と、それらを形成する利用率のKPIを“コアKPI”と位置づけ、チェックしています。また、既存のお客様の売上を示すNRR(Net Revenue Retention)も大切な指標です。しかし注目すべき指標は、事業や組織の変化に合わせて、変わってきています。
西井:チャーンを下げるための取り組みには、どのようなものがありますか。
川西:freeeの良さが伝わる機能を使っていただくよう、働きかけをしています。使われる機能はお客様の事業フェーズや規模によって当然異なりますが、「この機能を使っているお客様は、チャーンが低い」という傾向は把握できています。
そのため該当機能を使っていないお客様には、メールなどのオンラインだけでなく、担当者によるコミュニケーションも含めて、徹底的にオンボーディングします。「何かお困りですか」と声をかけ、「ぜひこちらの機能をお使いください」と、プロアクティブにアプローチするようにしていますね。
西井:わかります。お客様の成功につながる絶対的な機能を見つけることが、チャーンを下げ、サブスクリプションを成長させるカギになるんです。オイシックスも、まずは便利さを感じていただけるKit Oisixや、一般流通の野菜と味の違いを特に感じやすい野菜を、お試しセットに入れるようにしています。
川西:SaaSの場合は新しい機能も開発されていきますから、支持されている機能のレコメンドに加えて、お客様に合った新機能をご提案していくことにも、取り組んでいきたいです。