「ギフト」を例に紐解く、企業と生活者との関係性
意味のイノベーションについて、もう少し踏み込んで見ていきましょう。ベルガンティ教授は「ギフト」をメタファーに説明することがあり、意味の革新には2つの姿勢が重要であるとしています。
1つは受け手を注意深く観察し、潜在的に欲しがっているものや、これから喜び得るものを探る姿勢です。たとえば恋人にプレゼントを渡す時、欲しいものを聞いてそれを用意しても、相手に驚きを与えることはできません。共感的な姿勢やエスノグラフィカルな観察が求められます。
もう1つは、送り手と受け手の関係性を重視し、ギフトを通じてどのような関係を築いていきたいのか考える姿勢です。ギフトは両者の関係性が存在して初めて成立するもの。送り手自身が魅力的であることが重要ですし、具体的なビジョンがなければ、サスティナブルな関係を構築することはできません。
今日のマーケティング活動では、前者に紐づくような、生活者理解のためのリサーチやデータ分析は盛んに行われています。一方、後者の視点は置き去りにされてしまいがちではないでしょうか。生活者の価値観が多様になりつつあるのであれば、企業には豊かで柔軟な解釈を通じて、イメージやビジョンを定め直すことが求められるはずです。
“正解探しの罠”に囚われないために
ベルガンティ教授は、意味のイノベーションを起こすには、生活者に共感し、理解しようとする姿勢から始める、「アウトサイド・イン」のアプローチだけではなく、自分たちはどんな意味を届けたいかという「インサイド・アウト」のアプローチを取ることが欠かせないと説いています。
アウトサイド・イン型(=問題解決型、デザイン思考)
・生活者の今を捉えながら、そこに存在するインサイトへ訴求することに適している
・既存のインサイトに共感し、肯定的にアイデアを膨らませていく
・アイデアを可能な限り素早く具現化し、喜ばれるかどうか検証する
インサイド・アウト型(=意味のイノベーション)
・生活者に届けるべき/届けたいと思う「意味」は何かを熟考する
・批判的なアプローチを通じて「意味」を磨いていく
・ステークホルダーとの対話を通じて、共通言語を形成していく
生活者の声を聞き続ける「アウトサイド・イン」型だけでは、より良いギフトを届けることはできません。顧客とどんな関係性を構築したいのか。そもそも自分たちは何を大事にしているのか。そして届けたい「意味」とは何か。これらを批判的に探っていくことが大切です。
一般的に、リサーチやデータは顧客理解のために用いられ、「何が正しい理解か」をベースに議論が行われます。そのような正しさだけに縛られてしまう状態を、筆者は“正解探しの罠”に囚われていると捉えています。そうではなく、新しい解釈が生まれたり、共通言語が立ち上がったり、もっと探求してみたくなったりするようなデータの読み解き方もできるはずです。
やや批判的な書き方になってしまいましたが、正解探しのアプローチ自体が間違っているわけではありません。しかし、皆が正しい答えを探そうと精緻な分析をすればするほど、見えてくるものは同じになり、やがてコモディティ化に至ってしまうのです。
意味のイノベーションへの第一歩は、まずは自身の中にどんな価値観が存在しているか、どんな意味を届けたいと考えているのかを探ること。その上で、組織における対話を通じて「こんな意味を届けたい」という共通のスタンスを形成していく必要があります。