セブン、ディノス、B.MARKETINGが語るロイヤルティ戦略
ゲストマーケター講演では、加藤氏がモデレータを務め、セブン&アイ・ホールディングスの清水氏、ディノス・セシールの石川氏、JBAおよびB.LEAGUEの大会イベント企画などを行うB.MARKETINGの塚本氏が登壇した。
はじめに提示された問いは「ロイヤルティをどのように定義しているか」。セブン&アイ・ホールディングスでは、何をロイヤルティと見なすかは、コンビニエンスストアや百貨店といった店舗の業態によって異なるという。そこでグループ全体における優良顧客を把握するために、セブンIDを付与して購買履歴が残る仕組みを作り、高頻度、高価格で購入してくれる客を優良顧客と位置付けているという。
「優良顧客とその予備軍の合計人数は3割弱ですが、売上は6割を占めています。このことから、優良顧客を増やすことの重要性が伝わると思います。重視しているのは、いかにカテゴリーを拡大して買ってもらうか。お茶とお弁当だけでなく、雑誌も買ってもらえる。また、リアル店舗だけでなく、ネットでも買ってもらえるなど、買い回りの拡大も意識しています」(清水氏)
カテゴリー横断の重要性については、石川氏も同意。ディノス・セシールでは、LTVの高い顧客がどのようなジャーニーを辿る傾向があるかを調べ、ファッションのカテゴリーに到達した顧客はその後のLTVが高くなる傾向があることを突き止めた。
「お客様との最初の接点として強力なのはテレビショッピングなのですが、テレビで紹介する商材とファッションには距離があるので、食品の特集を紹介するなどして、徐々にカテゴリーを横断していただけるようにしています。Webや雑誌などのチャネルの横断が起きると、カテゴリーの横断も起きやすいようです」(石川氏)

セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 デジタル戦略部 シニアオフィサー 清水健氏
ディノス・セシール CECO (Chief e-Commerce Officer) 石川森生氏
B.MARKETING 取締役 塚本陽一氏
また清水氏は、金額の上では同じに見える売上も、「良い売上」と「悪い売上」に分けて考えている。良い売上は、ブランドや商品へのシンパシーが購入に結び付いているもの。悪い売上は、競合の開店や安売りなどにより、自店舗から離れてしまう売上を指す。清水氏は、「シンパシーを感じてもらうには、関心のある商品をお勧めすることが大切です。そのためには、お客様自らが発信するデータで趣味・趣向を深く理解することが欠かせません」とゼロパーティデータの重要性を述べた。
データと引き換えに、顧客にどんな価値を届けるか
企業が顧客にデータを提供してもらうためには、対価となる「価値」を正しく届けることが必要だ。塚本氏は、顧客がそれを口に出すことはなくても、情報を開示するときには“コスパが合っているか”を意識しているはずだと指摘した。
「私たちが扱っている試合のチケットは、商品の特性上、経済的な価値だけに依存できない難しさがあります。JBA協会が行うファンクラブでは、チケットの先行販売を行う月だけ会員が増え、翌月に離脱されてしまうこともありました。精神的、情緒的なベネフィットがないと、これを乗り越えるのは難しいと思います」(塚本氏)
そこで、たとえばチーム関係者を招いた限定イベントを企画するなど、売り物ではない価値交換を意識することで、リテンション向上につなげているという。
最後に三者は、ロイヤルティの概念をどのように自社のマーケティングに活かしていくか、今後の展望を語った。
塚本氏:バスケットボールの試合を見たことない人に、いきなり試合に来てもらうのはハードルが高いと思います。ロイヤルカスタマーが新規のお客様を連れてきてくれる。この循環をどう作っていくかを意識したいです。
清水氏:セブンイレブンは“近くて便利”というネットワークにおけるバリューを強調してきましたが、それに加えて、エクスペリエンスのバリューを高めていきます。その積み重ねによって、購買頻度もロイヤルティも上がっていくはずです。
石川氏:ロイヤルカスタマーになればなるほど、商材力の面でも、カスタマーサービスの面でも、期待が大きくなっていくはず。顧客の期待を超え続けることが最重要だと思います。
加藤氏は「このような取り組みは始まったばかり。2つのキーワードに関する様々なアイデアを持ち帰っていただけたら嬉しいです」と呼びかけ、セッションを締めくくった。