インターネット事業は既存事業と地続きではない
インターネット事業は既存事業と地続きではありません。それは向き合うマーケットが違うからです。かつ、新たなマーケットには、高度なテクノロジーによる新ルールと、顧客の新しい購買文脈が生まれています。
インターネットにおける旅行販売は、JTBにとって店舗を主体とした既存ビジネスと地続きだと思いがちですが、上記の理由から全くそうではありません。インターネットは販売チャネルではないのです。そのため、旅行会社がインターネット販売をするのではなく、インターネット事業体が旅行商材を扱うための事業計画が必要ということになります。ここに一つの断層があります。
こうした断層を認識せず、既存事業のための組織構造を維持したままネット事業に取り組むとどうなるでしょうか。
- 必ずテックの課題解決が絡むため、取り組みが簡単にスタックする
- 購買文脈をテクノロジー込みで理解するために膨大な時間がかかる
- 新規業務に対して常に否定のバイアスがかかる
ではどうすればいいか。打ち手には現状維持と同じ構造があります。人材(スキル、マインド)、文化、業務の慣性力(新たな構造的慣性力)を新しい形で構築するのです。
本当のマーケティング 計測可能な世界で忘れてしまったもの
インターネットが計測可能な世界になったことで、私たちはマーケティングの本質を忘れてしまっているのではないでしょうか。大事なのは、計測可能な世界において、マーケティングをすることです。
たとえば、評価モデルにおいて現在のマーケティング手法はマスに比べれば個別最適化になってきましたが、依然としてファネル構造になっていて、単純なリーチに対しての投下金額の割り算で費用対効果を求めています。この観点では小規模なセグメントに意義を見出すことはできません。また、SNSのようなリニアな購買心理醸成モデルが通用しない、逆ファネル構造のタッチポイントにおいても、同様に従来のROI計算による評価、効率化ができないのです。
ここで、マーケティングの定義に立ち帰ってみましょう。定義の一つは、顧客を創造することです。数や量の世界で顧客を特定しようとすると、母数が固定された世界=刈り取りの世界になってしまいます。それに対して、「特徴」や「文脈」という切り口でいくと、「特徴」を持つ人はどの「属性」でも対象者になります。これは顧客を解釈することであり、極論、全人類が対象者になるセグメントも発見することがあるかもしれません。
これが、セグメントを発見する=顧客を創造するということだと私は考えています。
「特徴」を顧客として認識する。属性ではなくマインドや、購買文脈によった切り口を発見する。そうして、市場を創造する。顧客の再定義は、既存事業と地続きではないインターネット事業における旅行商材販売事業に求められている重要な観点です。
翔んでセントラル 全事業部員セントラル化計画
これまで、組織には変わりがたい維持構造があること、内部で変革組織を構築した場合の摩擦/軋轢についてお話ししてきました。また、既存体制とは別の新しい特徴を持つ群を生み出すことこそが組織変革と同意義になることについて解説してきました。
データサイエンスセントラルは、小さく作り、メンバー育成、拡大、自律運営までを最短ルートで漕ぎつけることによって、実績の積み上げと一定の評価を得てきました。
次に必要になるのは、現状と違う特徴を持った群を生み出すこと。一般的にはインキュベーションセンターや子会社の設立、といったものが打ち手に挙げられますが、我々には、同じ志を持つ仲間や、素質を持ったメンバーがいます。彼らと協業しながら、可能な限り変化に適応する群に近づけ、オンライン関連事業部員全員のデータサイエンスセントラル化を段階論をもって計画しています。
そしてセントラルが活動拠点としてきたのは、ここ、丸の内北口ビルのコミュニティー型ワーキングスペース。実は、この場所は日本交通公社ビルヂングの跡地であり、JTBにとって意味のある場所です。周りを見れば、同じように事態を打開できずに困っているたくさんの日本企業がいます。各企業における状況はまさにケースバイケース。この連載が、集合知の一つとして役に立つと良いと考えています。
データサイエンスセントラルは、このJTBにおける、おそらく何度目かの変異体です。この変異体が、全体に変革をもたらすかどうか、現在進行中の“変革”として見守っていただき、この詳細はまた別の機会にお伝えできればと思います。