ミツカン流DX、5つのポイント
DXの取り組みによって、必ずしも直線的に活動が動いていくわけではない。マインドセットとして指数関数的な動きもイメージしておく必要があると、渡邉氏は語る。そのためトライ&エラーを繰り返しながら、諦めずに新しいビジネスモデルやサービスを社会にリリースし続けることが重要だ。
ミツカン流DXの5つのポイント
1. デジタルは手段。目的ではない
2. 目的意識を持つ
3. Think Big, Start Small
4. 生活者視点を忘れない
5. 外部視点(第三者的な視点) を持つ
重視しているのは、ミツカンらしい価値観で生活者と繋がり、戦略・組織・仕事を変えること。そのどれか1つでも欠けてはならないと、渡邉氏は考えている。
また、どうしてもDXというと、RPAやBIツール、AI、データ活用・分析といった真新しいテクノロジーやワードに心を奪われ、導入することで満足してしまいがちだが、先に上げたDXの失敗例のようにデジタルの導入を目的化しないよう、注意を払っているという。

イノベーションが起こせるなら、デジタルにこだわる必要はない
渡邉氏は5つのポイントのうち「2. 目的意識を持つ」について、次のように説明した。
「重要なのはデジタルの導入によってビジネスが変わり、業務改革が進むこと。そしてその結果、生活者に提供する商品・サービスのクオリティが劇的に変わることです。ビジネス変革や業務改革、商品・サービスのイノベーションという目的が達成できるのなら、手段はデジタルにこだわる必要はありません」(渡邉氏)
ところが、企業が陥りがちな2つの罠があるという。
よく陥る罠1: 目的・目標不在の中、戦略を立ててしまう
とにかくデータを集め、処理することが重要と、データ処理・分析プラットフォームを導入。その後「目的はなんだったのだろう?」と、わからなくなってしまう。プロジェクト途中で目的を見失ってしまうこともある。
よく陥る罠2: KPI設定から始めてしまう
計測しやすいデジタルだからこそ起こりやすい問題。たとえば、自社WebサイトでのKPI設定は本来、ビジネス課題・目的を設定した上で、目標・戦略を決定し、それを計測するためのKPIを設定する、という流れで進める必要がある。しかしこうしたプロセスを飛ばし、PVやUUといったわかりやすい指標を当てはめてしまう。
ミツカンでも、数年前にBIツールを導入しようとした時に失敗があったという。仮説も目的も決めぬまま、まずはやってみようということで様々なデータをBIツール上に入れてみたものの、何の分析結果も導き出すことができず、プロジェクト自体がストップしてしまった。
「ツールを導入する前に、仮説や目的、どのような分析結果を知りたいのかといった導入後の成果をイメージしておくべきでした。これこそ手段が目的化してしまった典型的な失敗例です」(渡邉氏)
“Think Big, Start Small”の難しさ
また渡邉氏は、「3.Think Big, Start Small」をいかに実現していくかにも言及した。ここにも、2つの罠が存在するという。1つ目は、やる前に考えすぎる「Think Big, Start Big」のパターン。これまで製造業では基本となっていたマインドセットだが、劇的で予測不能な環境に対応していくのは難しい。議論・検討するだけで何も起きないという状況は、避けなければならない。
2つ目は、とりあえずやろう、と走り出してしまう「Think Small, Start Small」。システム開発の手法の1つである「アジャイル」をそのまま受け取り、目的意識を持たないまま実行に移してしまう失敗だ。初期はうまくいっているように見えても、中長期的な成果につながりにくく、「POC疲れ」の要因にもなる。
ミツカンではこうした状況を回避しながら、DXを推進している。たとえば2019年6月にマイクロソフトのTeamsを導入した際には、いきなり全社で導入したり大々的なガイドラインを定めたりすることはせず、まずは渡邉氏の率いるデジタル戦略本部から「Start Small」で導入をスタート。部署内でフィードバックを繰り返しながら、全社導入した時にどのように活用するかイメージしながら進めるようにした。