未来ビジョンを宣言&ブランドで具体化
Mizkan Holdings(以下、ミツカン)のCDOを務める渡邉英右氏は、「『10年先を見据えた組織作り』と『目の前の生活者理解』を両立するMizkanのデジタル戦略」と題したセッションにおいて、同社の取り組みの現在地を語った。
創業1804年、江戸時代後期に愛知県半田市に創業したミツカンは、江戸前寿司に使われる酢を製造したところから始まった老舗メーカーだ。現在はグループ売上高約2,500億円を誇り、その約半数はグローバルの売り上げとなっている。
「やがて、いのちに変わるもの。」というスローガンを掲げ、「買う身になって まごころこめて よい品を」「脚下照顧(きゃっかしょうこ)に基づく現状否認の実行」という企業理念を大切にしてきた。そんなミツカンは、2018年に10年後のありたい姿として「ミツカン未来ビジョン宣言」を掲げた。
「ミツカン未来ビジョン宣言は、社会に対してミツカンのこれからのあり方を宣言するもので、『おいしさと健康を一致させる』等を目指していくESG(環境・社会・企業統治の頭文字を取ったもの)の考え方に基づいています」(渡邉氏)
理念を具体化する取り組みとして、2019年3月から、野菜や果物などの種や皮、芯、さやまで可能なかぎり丸ごと使う「ZENB(ゼンブ)」というブランドを展開。現在は自社のD2Cサイトを中心に、野菜ペーストやシリアルスティックなどの商品として販売している。
8割が失敗に終わるDX、それでも挑むべき理由は
ミツカンが描く未来に向かって不可欠なのが、全社を挙げてのDXだ。DXに取り組む企業は続々と増えているが、そのうち約7割から8割が失敗に終わると言われている(『Forbes』『DX Journal』等の記事を参照)。
それでも今、多くの企業がDXに取り組む背景には大きく2つの理由がある。1つは生活者の急速かつ劇的な変化だ。ほんの20年ほどの間に、ネットが発達しスマートフォンが広まり、人々の手の中に便利に使えるアプリやサービスが数多く生まれた。もうひとつは、クラウドやAIといった大量のデータを活用したテクノロジーが発達したことだ。
「生活者の変化とテクノロジーの進化をうまく捉えられなければ、企業は商品やサービスをうまく生活者に届けられず、競合他社から後れを取ってしまうでしょう」(渡邉氏)
DXという言葉がひとり歩きしていないか?
経済産業省の定義によると、そもそもDXとは「企業が既存のビジネスから脱却し、新しいテクノロジーを活用することによって新たな価値を生み出していくこと」とされている(参考)。ところが多くの企業が取り組むDXは、言葉が先行して実体をともなっていないと渡邉氏は指摘する。
「DXという言葉がひとり歩きし、『とりあえずデジタル化すること』まで含まれてしまっているように思います。自社アプリをリリースしたり、オンプレのサーバーをクラウドにしてみるといった取り組みをDXと呼ぶ企業もあるようですが、これらはあくまでも“デジタル化”の一種にすぎません」(渡邉氏)
DXの本質とは、従来のビジネスモデルに甘んじず、テクノロジーを活用した大胆な新規事業を仕掛けること、そして、デジタルを駆使して既存のビジネスをまったく新しいやり方で世の中に提供していくことを指すのだ。