商品勘定から“顧客勘定”へシフトせよ
こうした状況の中、両氏が重視しているのが、DX推進におけるマーケターの役割だ。逸見氏はリテールがDXを進めていくにあたって、これまでの「商品勘定」から「顧客勘定」へシフトさせることが重要だと考えている。
「たとえば、年間300億円の売上目標を立てたとします。その場合、『シューズ15万足で250億円、アパレル2万着で25億円』という商品の集計ではなく、『30万円の買い物をしてくださるお客様を3万人、10万円の買い物をしてくださるお客様を5万人、5万円の買い物をしてくださるお客様を10万人』というように、お客様単位で考えていくことです。つまりマーケターは、『いくら買い物をしてくださるお客様が何人いるのか』をしっかりと数値で把握することが大切です」(逸見氏)
その際、顧客IDがあれば、購入した顧客が既存顧客か新規顧客なのかがわかる。両者をLTV(顧客生涯価値。この場合は単価と購買頻度)に分解し、財務諸表に結び付けて可視化すれば、会社全体に対する影響も把握できる。こうした顧客分析とその施策を、経営に与えるインパクトとして可視化することで、経営層のマーケターに対する意識が変わっていく。
顧客視点と業務効率化をつなぐのがマーケター
リテール企業のDX推進は、顧客視点の「サービスにおけるDX」と、「社内のDX」に大別できる。顧客接点サービスのDX化とは、オムニチャネルの実現だ。モバイルアプリからのアクセス・検索傾向から嗜好性を分析し、パーソナライズされた広告を表示させたり、実店舗に誘導したりする。店舗のデジタル化が進んでいれば、デジタルサイネージによる商品のレコメンドや購買後のフォローなどが考えられる。
一方、社内のDXには、前述した業務効率化はもちろん、社内データの一元管理による「データ駆動型経営」が挙げられる。経営層がリアルタイムで各部署のデータを確認できるプラットフォームを構築し、意思決定ができる環境を構築する。さらに、生産者や卸業者、倉庫業者といったサプライチェーンともデータ共有できる体制の構築も欠かせない。
企業のDX化は顧客軸での改善活動。そしてその核となるのが、マーケターである――。これが逸見氏と田代氏の見解だ。
「カメラのキタムラの例のような業務効率化と顧客データ分析による顧客接点サービス、両者がつながっていて初めてDXが実現されます。その両者をつなぐ役割を担っているのが、マーケターなのです」(田代氏)
「マーケターはデジタルツールの運用や、デジタルマーケティングのKPIの改善だけではなく、顧客のLTVを全社の利益に結び付けて、経営から現場まで、費用対効果を含めた説明ができると良いでしょう」(逸見氏)
最後に両氏は「マーケターはより大きな視点でデータを活用し、企業のDXを推進して変革してください」と訴え、セッションを締めくくった。
・Biz/Zine Day「DXで変わる、店舗の顧客体験」
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