ビジネスと相関しない単純な「好感度」計測のリスク
もうひとつ対応すべきリスクは、「ブランディング」の効果計測で使われがちな「好感度」です。多くの企業で、テレビCMや「ブランディング」の効果指標としてアンケート調査での「好感度」が使われていますが、顧客が「テレビCM(広告)が楽しい、おもしろい」ことと、「商品が好きになった」という気持ちを分けて答えることは難しく、多くの場合、この2つは混同されています。つまり、アンケート調査で、「商品が好きだ」と答えても、単に「広告が好き」なだけで、実際の商品への購買行動にもつながらないケースが非常に多いです。
テレビCM好感度ランキングで上位をとったり、SNSで爆発的にバズったりしたが、商品は売れなかったという場合がこれにあたります。むしろテレビCMがおもしろいと、その印象のほうが商品の便益の印象を上回ってしまい、ビジネス成果にまったく結びつかないことも多々あります。いわゆるテレビCM好感度のランキングと実際の売上やシェアが相関している事例は決して多くありません。商品への購買意向はないが、ブランドは好きだという「ファン」を増やしたいなら、そのような「ブランディング」投資を続けるのは自由ですが、今後の経済環境だと贅沢な投資と言えます。
売上に直接影響する指標は「次の機会には買いたいかどうか」という顧客の次回購買意向です。したがって、「ブランディング」や広告への投資を続けるべきか、将来のリターンが見込めるかの判断材料となる効果測定指標は「顧客の次回購買意向」の増減を計測することをお勧めします。
顧客戦略=Who&Whatの組み合わせを根本的に見直す必要がある
ここまでマーケティング投資に関して特に「ブランディング」投資の扱いに関して紹介しましたが、その裏にある、より大きな課題について解説します。マーケティングといえば、「Who」誰に、「What」何を、「How」どのように届けるか、の「Who&What&How」は、基本フレームワークですが、その出発点は、誰に(Who)、何を(What)、訴求し提供するのかです。これは、ビジネスを始める根幹であり、「顧客戦略」(=Who&Whatの組み合わせ)と言えます。
本来、少なくとも、新規顧客獲得、離反顧客の復帰、現在顧客のロイヤル化など、それぞれの目的に応じて異なる顧客層に対して顧客戦略が複数必要です。それぞれの顧客戦略があって、はじめて、その実現方法や手法である「How」の考察が始まります。当然、どんなメディアやプロモーションに投資すべきか、削減すべきかという議論はHowの議論なので、本来は、土台である顧客戦略(Who&What)の優先順位に基づいて検証、議論されなければならないのです。マーケティング投資削減の判断が困難なのは、効果計測の問題もありますが、そもそも、判断の軸とすべき、顧客戦略(Who&What)自体がない、あっても優先順位が低いからです。
今だからこそ、この土台となる顧客戦略を根本的に見直し、誰に(Who)、何を(What)提供するのかを明確に定義にした上で最も効果的なマーケティング手法を検証すべきだと思います。それが実現すると、おのずとマーケティング投資効果は高まって行きます。