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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

急激なマーケティング投資削減で問われる「顧客戦略」の重要性

世代間の問題は、Who&Whatの「顧客戦略」で解決する

 世代間で分断が起きていること、しかし「中高年にデジタルは効かない」という一元的な見方も誤解があること、また人口のボリュームが違うので一概に投資効率を比較できないことを挙げました。顧客が一体どんな世界で生きているのかをつかめていないまま、マーケティング投資を変えると、当然ながら成果が得られないケースが多くなります。

 繰り返しになりますが、これは「顧客戦略の不在」が問題なのです。顧客戦略(Who&What)を明確に定義できていないから、若年層も年配層も、テレビ偏重の人もスマホオンリーの人も一緒くたにして「もっとデジタルに投資」しよう、もしくは、「もはやテレビ広告で大きく勝負だ」といった粒度の粗い意思決定が起きてしまうのです。結果、それで仮にうまくいったとしても、どんな顧客に対して効果があったのかはわかりません。モノが100個売れたとき、競合が買い占めただけかもしれないし、もはや人間が買っているのかすらわからないのに一喜一憂してしまうような状況から脱却すべきです。効果検証が精緻にできていると思われがちなデジタルマーケティングですら、顧客を見ず、A/Bテストの結果だけを見て数字を見ているだけではないでしょうか。誰が買ってくれたのか、そうでないのか、WhoとWhatのどの組み合わせが効果的なのか、そうでないのかの検証がない顧客戦略の不在はデジタルでも同じです。

 Who&Whatの定義がないままHowへ進めてしまうと、結果が出なかったときに顧客戦略に問題があったのか、それともメディア選択の問題なのか、クリエイティブの問題なのか、ターゲティングの問題なのか分析もできません。その状態でメディアの効果測定をしても、次の意思決定の論拠にならないので、それを元に打ち手を変えても無駄な投資になり、マーケティング全体がずれていきます。Who&Whatの顧客戦略を確立して、初めてHowのPDCAが始まり、マーケティング投資の効率が上がっていくのです

企業の意識変化と代理店が取り組むべきこと

 本稿の後半で解説した顧客戦略(Who&What)とHow(手法・手段)に関する課題は、今に始まったわけではありません。新型コロナウイルス問題をきっかけに、これまで放置されがちだった本質的な課題に着手せざるを得なくなっている、ということだと思います。今こそ、自社商品の提供すべき独自の便益(What)とそれを受け入れてくれる顧客(Who)を見極め、本来あるべきだった「顧客戦略(Who&What)」を定義し、目先のマーケティング投資だけでなく、全社的なリソース配分を見直して筋肉質な経営を目指していただければと願います。

 最後に、今後、マーケティング投資をする事業主側の意識変化と、広告代理店やマーケティング業務に携わる代理店の取るべき姿勢について触れておきたいと思います。今回のコロナ危機をきっかけに、多くの企業が、マーケティング投資全般をシビアに見直し、効果が見えない投資、目的の曖昧な投資が削られていきます。多くの業界で大手事業主が、売上減、顧客減、利益減を避けることができず、2020年は日本全体の広告マーケット自体が縮小すると思われます。

 広告やマーケティング業務を主務とする代理店への負のインパクトは、これまでのトレンドにない大きさになると思います。これまでは、事業主側に明確な顧客戦略がなくとも、マーケティング施策や広告制作の発注があって、何らかの収益を得ることができましたが、これでは、事業主と一緒に収益縮小を受け入れることになります。本来、事業主が構築すべきである顧客戦略の構築自体をサポートし、一緒に作り上げ、その延長でHowのビジネス提供をしていく変化が必要だと思います。事業主も、この課題に気づき、顧客戦略からマーケティング実行までの一気通貫でのサポートを求めるようになるでしょう。そのような事業主の変化に対応し、一歩先を行かなければ生き残れません。事業主のビジネスの特徴と顧客を事業主以上に深く理解し、顧客戦略を作るところから並走し、合意した顧客戦略に基づいて、How=マーケティング施策、メディア選択とクリエイティブ開発につなげるのです。Howの考案は本来、広告代理店が得意とするところですから、土台となる顧客戦略(Who&What)のレベルから合意できれば、短期的なコンペで疲弊することもなく、中長期のパートナーになれるはずです。

 おそらくここから数年、私達は、事業主側であれ、代理店側であれ、これまでの延長線上にない既存マーケットの急激縮小に直面するでしょう。しかし、それはネガティブな変化だけではなく、本稿に記載したようにビジネスとマーケティングの本質に回帰する流れが生まれてくると確信しています。すべてのビジネスの原点となる顧客戦略=Who(誰に)&What(何を提供するのか)を見極め、マーケティングに関わる者として、新型コロナウイルス問題で疲弊した社会に新しい喜びや需要を作り、社会と経済の復興に一緒に貢献していきましょう。

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この記事の著者

西口 一希(ニシグチ カズキ)

大阪大学経済学部卒業、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)マーケティング本部に入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを歴任。ロート製薬 執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「メラノCC」「デオウ」「ロート目薬」などの60以上のブランドを統括。ロクシタンジャポン代表...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:44 https://markezine.jp/article/detail/33439

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