デジタル活用して高崎市のブランドを向上
MarkeZine編集部(以下、MZ):現在高崎市では、「農Tube高崎」のYouTubeチャンネルを運営されていますが、始めた理由はなんだったのでしょうか。
湯浅:我々が属している農政部は、農業を通じた高崎市のブランド力の向上を目指している部署です。
高崎市はこれまで、2017年に高崎市の昔ながらの飲食店を紹介したローカルグルメサイト「絶メシリスト」、2018年に高崎市内のおもしろいスポットを発信できる「#インスタグンマー高崎」といったシティプロモーションを実施し、市の魅力を伝えてきました。今回の「農Tube高崎」は、それに続く第3弾の企画として始まったものです。
高崎市だけでなく、農業における就労者人口減少は全国的な課題となっています。我々はその減少に歯止めをかけ、若い方に高崎市の就農に興味を持ってもらうべく、それらのきっかけづくりとしてデジタル上での発信に着目しました。
MZ:デジタルでの発信といっても様々な方法があったと思うのですが、YouTubeを選んだのは若年層をターゲットとしていたからでしょうか。
下田:そうですね。農業全体で高齢化が進んでいることが就労者人口減少の大きな要因となっています。若い方の間でYouTuberの方の動画は日常的に見られており、農業のリアルを伝えていくのにも有効だと考えました。
そのため、農業素人の男女2人を“農Tuber”として起用し、2人による「農Tube高崎」を通じて、高崎市の農業や農作物の魅力、農家の方の優れた栽培技術などの情報を発信していければとの想いで、博報堂ケトルさん協力のもと運営しています。
農業のリアリティとエンタメ性を届ける
MZ:動画の制作は、博報堂ケトルが協力しているとのことですが、これまでにどのような動画を投稿してきましたか?
畑中:基本的に「農Tube高崎」では、高崎市で栽培している農作物に関することをテーマにしているのですが、制作する上での軸は2つあります。
1つ目は、“実際に野菜を育てる”様子を伝えること。農Tuberの2人用に畑を用意して、高崎市の農家の方に教えていただきながら、トラクターで土を耕す、種を植えるなど農業に携わる模様を動画にしています。
2つ目は、“農業とは少しズレた視点から”魅力を伝えることです。農家の方に年収を直接聞きに行ってみたり、収穫した野菜で料理をしてみたりと、よりエンタメ要素を含んだ内容を作っています。
これらの軸をもとに動画を制作・配信しつつ、農作物の旬、収穫時期などのモーメントをつかんだ動画も出すようにしています。たとえば、希少な「生あんず」を食べ比べする企画、普段見られない出荷直前の作物を見せる企画などですね。
丸川:農Tuberとして活動してくれている手島さんと富井さんも意思を持って動画配信に携わっているので、彼らの考えも大事にして動画を制作・配信しています。
MZ:高崎市は現在配信している動画に対してどのような感想を持っていますか。
湯浅:農業や野菜のみで高崎市ならではの特色を出すのはなかなか難しくもあり、高崎市らしさは今も模索しているところです。たとえば農家個人にスポットを当て、「その人のもとで働きたい」「その人が作ったものを食べたい」と思ってもらえるような動画を制作できたら良いなと思っています。
Twitterのプロモトレンド活用の理由は?
MZ:「農Tube高崎」のTwitterアカウントも立ち上げられていますが、どのような狙いがあったのでしょうか。
畑中:実はプロモトレンドを実施するために、Twitterアカウントを立ち上げたんです。
MZ:広告メニューを使うためにTwitterアカウントを立ち上げたとは意外でした。なぜプロモトレンドを実施したかったのでしょうか。
畑中:プロモトレンドは、デジタル広告の中でもマスメディア級のリーチが得られます。そのため、そこでプロモーションされている商品というのは、どこでも購入できる大手企業によるものが多い。
そんなプロモトレンドにあえて地方自治体のYouTubeチャンネルが出稿することで、キャンペーンや告知が通常よりも広がるのではないかと考えたのです。そこで、メディア予算を集約して投下してみることを高崎市に提案したんです。
また地方PRの場合、対外的な発信に加え、地域の住民の方がその取り組みを認知することが重要です。デジタル広告の場合、「いつどこに出ているのかわからない」ものが多かったりしますが、プロモトレンドであれば、1日中同じ場所に掲載されているので、高崎市民や市役所で働く方にも届くので、やる意味があると考えました。
話題化だけでなく好感度アップにもつながる結果に
MZ:2020年3月にプロモトレンドを実施していますが、どのような成果が得られましたか。
丸川:具体的な数字としては、1,000万インプレッション、2万7,000リツイート、1万1,700いいねという結果になりました。他のプロモトレンドと比べても、見た人の好意度は高かったとも感じていまして、「高崎市にはこんなおいしそうな野菜があるんだ」など、高崎市の野菜に興味を持ってくれたことがうかがえるコメントも数多く見受けられました。
畑中:プロモトレンドでは、「 #野菜もらってくれる方探してます 」のハッシュタグとともに、プレゼントキャンペーンを紹介したのですが、その当選者数は抽選で20名でした。通常プロモトレンドで行うプレゼントキャンペーンはもっと大規模です。
しかし、そこもあえて20名とすることで、少しほのぼのとした雰囲気を演出できたと考えています。
プレゼントする野菜を2人がもらいにいく様子も、「農Tube高崎」にアップすることで、TwitterからYouTubeに動画の視聴を促せるよう意識しました。
MZ:確かに、一般的な企業によるプロモトレンドと比べると異質に見えるかもしれません。その違和感を上手く使われたということですね。
畑中:プロモトレンドで全国に出ることが決まっても、普段の「農Tube高崎」のこじんまりした感は残したままにしようと思ったんです。そのため、プロモトレンドのコメントも変に背伸びしないようにしました。
全国的なものではなく、すぐに買えるものでもないので、ネガティブな反応が出てしまう可能性も考えていましたが、結果として温かい応援のコメントが非常に多くてよかったですね。
プロモトレンドがYouTubeにも大きく寄与
MZ:高崎市のお2人におうかがいしますが、プロモトレンドの提案が出てきたときどう思いましたか?
下田:高崎市としても、「農Tube高崎」の注目度をもっと上げていかなくてはと考えていたので、「より多くの人に見てもらう場を設けるための提案である」という言葉を後押しに実施することを決めました。
結果としてYouTubeのチャンネル登録者数も倍増しましたし、Twitter上のフォロワー数も想定以上に増えました。全国の様々な方に高崎市の農業に関する情報を届けることができる場所を創出できたので、非常に良い成果だったと捉えています。
湯浅:プロモトレンドによって、当初YouTubeを見ていなかった市民からも「見るようになった」「おもしろい」という声が聞けるようになりました。
また、「農Tube高崎」を見てYouTubeに出演していた高崎市の農家に弟子入りした人がいたとも聞いているので、農業に対する興味関心を高める取り組みとしても効果を発揮し始めていると実感しているところです。
MZ:プロモトレンド以降、Twitterアカウントはどのように運用していますか。
丸川:あくまで農Tuberの取り組みがメインなので、基本はYouTubeにアップした動画の告知が中心です。
ただ、Twitterは双方向でのコミュニケーションが取りやすいプラットフォームだと思っています。たとえば、先日新型コロナウイルスで自粛が続く中でできることとして、Twitterでのライブ配信をリモートで行いました。すると、以前撮影にうかがった農家の方が飛び入りで参加してくれて、そこでコミュニケーションが生まれました。双方向性の高さは、やはりTwitterの魅力ですね。そうしたコミュニケーションが生まれる投稿をしていきたいです。
Twitterはフォロワーとのコミュニケーション装置に
MZ:今後は、Twitterをどのように活用していきたいですか。
畑中:元々は、プロモトレンドの実施のためにTwitterアカウントを立ち上げた形ではありました。ただ、編集してアップするYouTubeと、農Tuber2人の状況や想いなど、よりリアルな投稿ができるTwitterと、特性を活かした使い分けができると思ったので、動画の告知以外にも、インタラクティブ性を持たせたコミュニケーションをTwitterで行えたらと考えています。
丸川:高崎市の農家の方にはTwitter利用者もいるので、「農Tube高崎」がそういった方の声を拡散する装置にもなれるはずです。いずれは「農Tube高崎」のTwitterアカウントが全国の農家の想いを広められるようなコミュニケーション装置になるように成長させられればと思っています。
湯浅:農家の方は高齢な方も多く、情報発信が苦手な方、日々の仕事が忙しくてできない方も一定数います。そういう人たちの代わりにというわけではないですが、引き続き高崎市の農家の方々が作った農作物の魅力などを紹介していきたいです。
「高崎じまん」というアンテナショップも開いているのですが、そこでの売上を伸ばすところにもつなげていければと思います。
下田:YouTubeとTwitterの取り組みを通して、より多くの、特に若い世代に関心を持っていただけるようになりました。高崎市民にもチェックしてもらえるようになり、動画再生数も着々と増加しています。Twitterも含め、もっと楽しんでいただけるような動画を作り、より効果的なPRを仕掛けて参りたいと思います。