最も大事なステップは、顧客の問題を探すこと
たとえば、最近急激に暑くなってきましたが、数千年にわたって暑い日のソリューションはうちわや扇子でした。電気が発明され扇風機が開発されたのは、大きなイノベーションですね。
扇風機を使うようになると、強弱が変えられるといいとか、タイマーがあるといいといった細かい課題が持ち上がり、都度解決されてきました。このような改良・改善は、リノベーションです。続いて、エアコンが登場したのはまた大きなイノベーションです。以降、除湿や自動清掃などの機能改善が重ねられてきました。

世の中にはこうした例がたくさんあります。イノベーションはなかなか起きるものではありませんが、一つ起こせれば、そこで表れてくる新たな問題を解決することでリノベーションが起き、ビジネスを成長し続けることができます。
その構造自体は変わっていないものの、「モノ」を通して顧客の問題を解決していた20世紀に対し、21世紀はデジタルやインターネット、IoTを活用した「モノ・サービス」によって顧客の問題を解決するようになっています。解決の手段、あるいは顧客の問題そのものの質が変わっているのです。そのため食品・飲料会社である当社も、デジタルをうまく活用しながら顧客の問題解決に取り組んでいます。
では、「顧客の問題解決」を実際にどのようなステップで行っているのか? スタートは「自分たちのビジネスの顧客は誰なのか」を定義することです。次に、我々のビジネスと顧客を取り巻く新しい現実を把握します。そして、そこでの顧客の問題を発見し、解決します。このステップの中でいちばん重要なのは、問題を探すことです。

変わりゆく環境の中での“攻めどころ”はどこか
当社では「マーケティング経営」と同時に、全部門でのマーケティング思考を推奨しています。
先ほど“自分のビジネスにおける顧客”という話をしましたが、顧客とは何も商品を購入される消費者だけではありません。流通のパートナー企業も顧客ですし、人事なら従業員や就職活動を行っている学生、OB・OGも顧客です。
顧客の定義から始め、顧客と自分のビジネスを取り巻く状況を考えることで、どの部署の社員でもマーケティング思考によって、イノベーションやリノベーションを起こすことができます。
マーケティング思考を実践するための取り組みの一つが、2011年に開始した社内企画「イノベーションアワード」です。単なるアイデアの提案ではなく、顧客の問題解決につながるアイデアを考え、そのアイデアを実際に実行し、その結果をシェアするのです。
初年度こそ計80件の応募でしたが、2019年は4,000件弱の応募があり、過去にはマーケティング部門だけでなく営業やサプライチェーン、ファイナンスの部門のスタッフも受賞しています。この受賞企画からは「焼きキットカット」「ネスカフェ スタンド」など複数の案件が実際のビジネスへ発展しています。
前述のステップを通して、たとえば飲料事業においては1杯抽出型コーヒーのシステムソリューションの提供や、オフィスでそのマシンを活用いただくサービスである「ネスカフェ アンバサダー」といった新規事業を開始しました。個人消費の増加や、家庭内のコーヒー消費機会が減っているといった現実を捉えて攻めどころを見つけ、この10年でコーヒーの体験を大きく変化させてきました。

