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デジタルトランスフォーメーション~分断を乗り越えて

AOKI、JTBのデジタルキーパーソンに聞く DX推進のためにしたこと・するべきこと

デジタル化を社内に浸透させていくなかで起きた衝突

――伝統的企業において、デジタルを扱う組織は異端に思われることもあるでしょうが、社内の理解を得て味方を増やしていくためのポイントはありますか。

JTB 山上亜紀氏
JTB 山上亜紀氏

山上:JTBの場合は実はインターネット黎明期からオンライン販売に取り組んできたという経緯があります。そのため、既にある程度確立した手法のようなもの(=現行業務)が存在していました。DSC立ち上がり当初は既存業務とあまりバッティングがない基盤構築や顧客分析はスピーディーに導入ができましたが、施策を実施する段階になってから、うまく回らないといった問題が生じましたね。

福田:既存業務に取り組むメンバーが、新しい枠組みや、業務に対して感じる“抵抗”と、やったことがないからスキルがないという“欠落”の両面が出てしまった。そんなことはありませんでしたか?

吉田:はじめの取っ掛かりは非常に大変ですが、流通・小売って売上がすべてを癒やすといった部分があるので、売上として返ってきたらすべての抵抗がさーっとなくなったみたいです。

 MA導入時に短期的に売上が伸びる施策としてレシートクーポンをやってみたら、成果がはっきり出たため各部署からお呼びがかかるようになって、一時期レシートクーポン屋みたいになっていた(笑)。なので、成功体験を積み重ねることがポイントですかね。

山上:当社の場合、既に様々なひととおりの施策を行ってきたため、「それはもうやったから」となってしまいがちだったりします。

 たとえば、ペット同伴の旅について顧客のインサイトを発見し、それに基づいたLPを制作しようとすると、ひととおりの施策を実施しているため「もう作ってある」という反応があります。実際に制作済みで、地域別の宿泊施設が見やすく一覧になっています。しかし、実はペット同伴で困るのは、うちの大型犬をどうやって飛行機に乗せればいいのかであったりするわけです。

 “顧客を主体としたコミュニケーションプラン”に移行するということは、お客様のペインやウォンツをクリエイティブに落とし込むということです。元々のプロダクトアウトの体質は、ともすると“商品告知”になりがちです。これをマーケットインに変革していく難しさがあります。

福田:こういうコミュニケーション・プランニングは、元々総合代理店が得意としていた領域だったじゃないですか。インターネット文脈でこれを設計できる人は売れっ子になっていますし。

 僕自身がそれを理想としているのもあるのですが、「コミュニケーション・プランニングって何?」ってことから始まることも多いので、そこにギャップがあることを痛感しています。

VOCと提案資料のパーソナライズで社内の壁を越える

――そのうえで、再現性がある方法や心得をアドバイスするとしたら何かありますか。

吉田:VOC(顧客の声)は一つの手がかりになりそうです。「お客様がこう言っているから」は、全員に効く言葉じゃないですか。MA導入後、真っ先にやったのもアンケートの依頼メールでした。

 来店翌日に『昨日の接客どうでしたか?』『店舗体験はどうでしたか?』と声を集めることにしたところ、はじめは社内から「メールで簡単に回答できると、お叱りやクレームが増え、現場のモチベーションが下がる」「アンケートはハガキだけで十分」といった反発の声もありましたが、蓋を開ければ9割がお褒めの言葉で、アンケートの件数もそれまでの2倍に増えました。

 結果として、お客様の声を毎週レポートできちんとフィードバックしてあげることで、現場のモチベーションは上がり、顧客満足度を店舗スタッフの評価に新たに加えることにもつながりました。

 いただいたお客様の声は商品・サービスの開発・改善に活かせるだけでなく、施策提案を通すための手法としても確立されました。

 また、社内からの抵抗は、長年の慣習や思い込みからくるものがほとんどです。ただ、実際に毎日お客様と真剣に向き合っている現場スタッフに直接ヒアリングすると、そんなことはなかったりするので、施策が支持されていることを明らかにするために現場スタッフにもアンケートを採ることがあります。

 その最たる例が「STAFF START」という店舗スタッフがデジタル上で接客できるサービスを始めようとしたときです。「STAFF START」は店舗スタッフが自分のコーディネートを投稿するのですが、写真に商品情報が紐づけられていて、それ経由で購入されると本人の評価(=給与)につながる仕組みになっています。

 提案時は、「コーディネート投稿に集中してしまい、店舗での接客が疎かになる」「SNSは集客・売上に寄与しない」といった反発の声がありましたが、店舗スタッフはSNSで自分を映えさせるのに慣れていて乗り気だったことがアンケートで示せたので、提案を通すことができました。

 実際に、STAFF STARTを始めて、「このスタッフさんに接客してもらいたい!」といったスタッフ指名の来店予約も増えましたし、はじめてまだ半年ですが、既にEC購入の約3割がSTAFF START経由と、集客・売上にかなり貢献しています。

 また、店舗をダウンサイジングしていかなくてはならない環境下で、店長やマネージャーへの昇進がしにくくなっているなか、店長やマネージャーになれなくても、オフライン、オンライン関わらず、接客を頑張ればきちんと評価される、という別のモチベーション軸にもなっています。

 あとは提案資料を社内ステイクホルダーのレイヤーにあわせた内容に都度カスタマイズしたりもしています。

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デジタル推進のため2社が取った真逆のアプローチ法

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

江川 守彦(編集部)(エガワ モリヒコ)

東京大学文学部を卒業後、総合広告代理店でマスメディアの媒体営業業務を経験し、出版社に転じて人文系の書籍編集に従事したのち、MarkeZine編集部に参画。2018年よりオーガナイザーとしてMarkeZine Dayの企画にも携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/07 09:00 https://markezine.jp/article/detail/34015

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