「ダークストア」の失敗の本質
ダークストア化とは、街のあちこちにある既存店舗を、来店者がいない店舗(=ダーク)とすることを前提に、オンラインでオーダーを受け、店舗内で手作業にて宅配する場へと変化させることだ。Amazon傘下の「Whole Foods Market」が外出自粛期間に、マンハッタンの人気店舗を急きょ来店者向けから倉庫&出荷拠点として衣替えしたことが、米国での「ダークストア」の認知を高めた(図表1)。

日本でもその取り組みは進みつつあるものの、実は米国では玉石混交だ。「オンライン注文へのシフト」の名の下に、根本的な負債である「実店舗」を短絡的に改造する目先の施策に陥り、ほとんどのケースが収益の首を絞める結果にとどまっている。米国のWalmartも「実店舗」を活用する方向だが、収益まで見てその施策の良し悪しを判断する必要がある。
実店舗で店員がオンライン注文の商品を手で集めるのは、非効率極まりない。来客を前提とした実店舗のレイアウトは、元々は時短とは逆に「買い物時間をついつい長くとってしまう」ように工夫されているからだ。
米国ではプロの「ピッキングスタッフ」を配備するビジネスデリバリーのスタートアップ「Instacart」が登場している。Instacartは食品買い物代行アプリのユニコーン企業ではあるが、末端は「人力職人芸」に頼るモデルである。親切な配達や接客を行うわけではなく、効率の埋め合わせに過ぎないサービスはキャッシュの赤字が拡大する。
勝ち筋は「フルフィルメント・センター」
「既存の店舗」が基準になると、来店に便利な場所代として採用した「高額な店舗家賃」を払いながら、「暫定的な人力」に頼る付け焼き刃になってしまう。そこで最初から倉庫形態のフルフィルメントとして、徹底的なロボティクスを導入した「全自動」に踏み込む「フルフィルメント・センター」の選択肢が出てくる。
その小型版が「マイクロ・フルフィルメント・センター(MFC)」であり、全国を視野にして本格的に立地配分したものが「セントラル・フルフィルメント・センター(CFC)」である。
近年は「ダークストア」の概念から、MFCの概念にシフトする気配が見受けられる。CFCと比較してMFCのほうが、現在の立地店舗を手放すことなく、広さ・資金・時間への投資がお手軽だからだ。実験的なMFC「犠牲店舗」の例を、メディアは成功事例のように「ネットスーパー」という日本語で取りあげているが、これらの情報には注意して接する必要がある。
筆者の結論は、「CFC方面への投資こそが小売業の基本OSになる」だ。投資スパンは5年の準備と数十億円が1拠点あたりの投資額に引き上がる。利用するクラウドを流通の敵であるAmazonのAWSに頼りたくないので、MicrosoftのAzureの注目度が上がっているのも、このCFC方向の動きだ。すべての企業や事業に当てはまるとは思えないかもしれないが、その「方向」と「歩幅」、そして「価値観」を押さえたCFCの概念に向けて、企業それぞれのレベルで進むことはできるだろう。
規模を追うビジネスの流通は、どうしてもセントラル化に向かう。「オンラインの売上は今年度○%成長し、約○兆円に達すると見込まれている」というトップラインのセリフは聞き流し、それよりもボトムで個々の顧客と直接つながり、利益を出す方法を考えることから始まる。店舗、そしてInstacartやFedExなどの外注に委託しない方法を模索すべきだ。
未来へのカギは「オンライン注文を受けるEコマースサイト」の構築やプロモーションのファネルの入り口ではない。「磯野家の勝手口に来る御用聞きのサブちゃん」としてのディストリビューション・パイプを自社資産として構築できるか。いまだにこれが原点のはずだ。それを証明するように2020年7月8日に、200年の歴史を持つアパレル店舗ブランド「Brooks Brothers」が破産申告を行った。米国では次なる店舗経営企業の倒産予想が、すでにリスト化されている。