勝ちパターンにこそ落とし穴がある
栗原:それ、すごく深い話ですね。セグメントごとにしっかりターゲットを定義して、部門を作ってやっていくって、ものすごい勝ちパターンですが、そこに落とし穴がある。
川西:イノベーションのジレンマの、スケールが小さいバージョンのような感じなのかなと思います。目の前のことはうまくいっているのですが、長い目で見たときに「このままやっていたら、目指していた場所にたどり着かないぞ」という。
栗原:あるとき辺境から、振り込みや手続きを続けている人たちを救うようなプロダクトが出てきて、値段もクオリティーも無視できるものだと思っていたら、いつの間にか飲み込まれてしまう、という話ですね。
川西:すごく危機感を抱いています。
カリカリベーコンになってはいけない!非効率的なトライを継続
川西:似た話で、成功パターンを掴んでいたり、今のやり方でうまくいっている部分があると、世の中のマーケティングの潮流を取り入れてみよう、新しいツールを試してみよう、といった挑戦がどんどんしにくくなるのも課題です。今以外のやり方を模索するエネルギーを、本来もっと持つべきなんだろうなと思っています。
栗原:今のやり方がうまくいっていて、目の前の目標も抱えている状況にいると、新しい探索をするインセンティブが働かない。
川西:そうなんです。どんどん深める方向にいってしまう。しかも深めていくエネルギーが強い人たちを意図的に配置しているので、余計その力が大きく働きます。
栗原:今、それを解消するためのアイデアはお持ちですか。
川西:既存のROIの枠組みの外に、“探索専門”のユニットを設けています。予算もチームも別立てにして「このテーマ、このプロダクトに関しては、一旦ROI度外視してやります」と。探索せざるを得ない環境を設けて、一見非効率的なトライを組織的に継続できるようにしようとしています。
栗原:それは汎用性が高そうな考えですね。知り合いの経営者の話ですが、マーケティングの予算を組むときに「9割で予算を達成できるようにしておいて、残りの1割は費用対効果のよくわからないものに充ててみる。その分もしっかり消費する」という方針で、毎年の予算を組まれているそうです。
その会社は攻めたプロモーションなどをうまくやられているな、という印象があります。そういうふうに、広げるほうにもあらかじめ予算を配分しておく、というのは良いのではないかと思います。
川西:大事ですよね。そうしないと、カリカリになったベーコンみたいに油が出尽くして「ここから先は何も出ません」という状態になってしまう。マーケティングという上流部分のエネルギーが枯渇していくのは、避けなければいけません。
栗原:働いている人にとっても、新しい刺激が減っていくことになるので、そういう意味でもやる必要があるような気がしますね。