デジタルによる効率化で、サービスにかかわる皆が楽になるのがDX
コロナ禍でECが盛況だ。新たにECというチャネルを設けたことにより、従来なかった売上が立つのは喜ばしいことだが、リアルの売上減を補うまでのインパクトはなく、悩み始めた企業も少なくないのではないか。単なる物販ECではなく、自社のDXを描き、その上でECを構築するほうが長い目で見れば大きな成功につなげられそうである。
ECを熟知するGMOメイクショップ株式会社 代表取締役社長 向畑憲良さんは、このような現状を踏まえ、DXとECについて次のように語る。
「DXとは、そのサービスを利用する人たちが便利になることだと考えています。利用する人とは、消費者はもちろん事業者側、すなわち経営やミドルマネジメント層、販売部門やシステム部門など、サービスにかかわるすべての人たちを指しており、その全員が、今よりもずっと楽に、快適になることです。とくに事業者については、手間がかかる仕事の進めかたをしているため、システム化して効率化したいというニーズがあります。
私個人の経験を例としてお話しすると、オーダーメイドのスーツを作ろうとはじめての店舗を訪れたところ、時間が足りずその日は相談と採寸だけで終わってしまい、その後、多忙でその店舗を訪れることはありませんでした。もし、事前にEC上で気に入った生地をいくつか選び、リアル店舗に採寸に行った際に生地の素材や実際の色を確認するといったことができたら違ったでしょう。このように、デジタルを活用しないことで強いられていた不便が、消費者にも事業者側にもあるはずです。
これまでデジタルを活用してこなかった企業や消費者は、まだ見ぬデジタル活用が、どれほどの利便性をもたらすか想像できないでしょう。今取り組んでいる業務が、どれほど非効率的か気づくことができない。これがデジタル化が進まなかった理由だと考えます。
コロナ禍で対面ビジネスが難しくなり、突貫で物販用のECサイトをローンチした。それはそれで、ひとつのECの役割だと思います。たとえば、コンタクトレンズやスキンケアの定期購入のような買い物が便利になるでしょう。少し発展して、型や価格がある程度定型化されたメガネECといったようなコンセプトのものは、EC部門のみの権限で構築できるかもしれません。でもそれは、従来店舗で提供してきたオーダーメイドの満足度には及びませんよね。その企業のDXを実現したとは言えないわけです。リアル店舗では手間や時間がかかりすぎて非効率になっていたオーダーメイドを、デジタル活用で一部業務を効率化し、高い満足度で提供できるようにすることがDXなのです」