3ブランドはなぜコロナ禍の影響を受けなかったのか
田中氏はトヨタの強さについて、3つの理由を挙げている。「トヨタが黒字を見込む背景には、経費の削減を徹底したうえ、『利益を出す体質』を目指して、原価(車をつくる際にかかるコスト)を低くしてきたこと。東南アジアなど黒字を出している市場を既に持っており、そこから大きな黒字を生んでいること。最後に、サプライヤーなどトヨタの協力会社との強固なつながりにより、コスト削減に協力してくれる体制を築いていたこと。この3つが、今回のコロナの影響を最小化できた要因ではないか」(田中氏)
つまり、元々進めていたコスト削減対応と、リッチなマーケット、サプライヤーとの協力体制という経営上の強みがブランドの強さにつながったわけだ。
(1)原価低減努力
(2)儲かる市場の確保
(3)サプライヤーの協力
では不動産会社のヒューリックはどうか。ヒューリックは賃貸収入の約6割がオフィスビルであり、固定収入基盤を持っていたので、新型コロナの影響をそれほど受けずに済んだという。そして賃貸物件もそうだが、売買物件についても、人気の都心や駅近物件を中心に展開していたため、極端な値崩れがなかったそうだ。「つまり、環境変化を受けにくい取引関係を築いていた」と田中氏は説明する。
コメダ珈琲も同様に、元々新型コロナの影響を受けにくい出店戦略を取っていた。外食産業といえば、オフィス街や学生街、繁華街など人が集まる場所に出店を行うが、コメダ珈琲の場合、車が行き来するロードサイドを中心に店舗が多い。外出自粛中にも、物流の車は行き交うので、繁華街に比べてロードサイトはそれほど影響を受けずに済んだ。
加えて、山小屋風の高い天井の店舗デザインも、今回は良い印象を与えた。さらに、ボックス席が多く、他人との無用な接触が避けられる設計になっていることも影響し、黒字につながったといえる。田中氏は「環境変化を受けにくい市場ポジションを確保していたことが、コメダ珈琲の強み」という。
ブランド戦略の構造から見る3ブランドの強み
以上、コロナ禍でもマイナス影響を受けず、黒字を上げてきたブランドに共通するのは、「環境要因に影響を受けにくい“強固な経営基盤”を持っていたこと」に尽きる。もちろん、こうした経営基盤とは、あらかじめコロナを予想して策定されたものではまったくない。たまたま、そうであったに過ぎない。しかしながら、ブランド戦略にとってこうした考察は、以下のようなインプリケーションにつながっている。
「ブランド戦略に際し、経営的な視点は必要なのか」という疑問もあるだろう。これに対し田中氏は、自身が考える統合ブランド戦略の構造を以下のように定義し、「ブランド戦略を下支えするのは、経営戦略」という見方を示す。

ここでいう経営戦略とは、簡単に説明すると「どの経営資源を、どこにどのように配置するか」という戦略のこと。たとえばトヨタの場合、収益構造において、景気や環境の影響を受けにくい体制を作り出してきたし、ヒューリックは影響の受けにくい取引関係を築いてきた。コメダ珈琲は、他の外食と一線を画し、繁華街中心ではないブランド戦略で市場ポジションを構築してきたといえる。
「3社は、『どこにどのようなブランドを構築するか』というブランド戦略の基礎部分、経営者視点で『影響を受けにくい地位・関係』を築いてきた」と田中氏は説明する。
