スケールアップフェーズに入るためには必要なこと
皆さんの企業がスタートアップやマーケティング組織の立ち上げ段階であれば共感していただけると思うが、どの様な組織の立ち上げ期でも、最も重要なのはAutonomy(自主性、チャレンジ精神)だ。事業成長に関わるメンバーが自立して自発的に行動を起こすことが大切だが、スケールアップとなると今度はある程度の規律や効率性を高めるための、組織的な再構築が必要になる。たとえば、無秩序なツールの部門ごとでの導入や、コミュニケーションフローの乱立などである。
同社もデータ、システム、オペレーションを再構築しなくてはいけない状況であった。その状況を定量的には測るために、システムユーザビリティースコアという指標を設定していたものの、状況は悪化の状況であったそうだ。

「そこで、フライホイールの各段階を担当部門に任せるのではなく、各部門が前フライホイールを担うというマインドセットに切り替えることに努め、それぞれの得意分野に集中することにしました。たとえば、マーケティング部門は(見込み客から既存顧客までに対しての)コンテンツ、(見込み客から既存顧客までに対しての)コミュニケーション(と自動化)などです。営業部門は営業活動、カスタマーサクセスはカスタマーサクセスを、という具合です」(ジョン氏)
加えて、「Unified Flywheel」と「Unified GTM Strategy」を持つことを忘れない様にすべきであり、それらを明確に理解することによって「Unified Ops + Systems」をかなり明確に可視化することができるとも付け加えた。
筆者が同社に入社した時タイミングでは、同社は他社のツールを顧客支援活動に利用していた。その際のモデルは、以下の様に、顧客レコードシステム(System of Record)、コンテンツシステム(System of Content)、顧客エンゲージメントシステム(System of Engagement)を、自社ツールを軸にしながらも、業界リーダーのツールを組み合わせている状態だった。

この状況は多くの課題を生み出したため、同社は複数の顧客レコードシステム、当時の自社CMSを自社仕様のために大幅なカスタマイズした。結果、顧客情報を一元的に把握できない、カスタム開発が多すぎるためにスピーディーに施策の展開が難しい、部門間で別々のシステム運用のため顧客対応に一貫性がない、などの課題があった。
なぜ営業とマーケティングは噛み合わないのか?
筆者自身、日本のBtoB企業でも多くの似た状況を見てきている。マーケティング部門と営業部門で顧客コンタクトレコードに一貫性がない、ツール間での同期がうまくいっていない、データの定義が曖昧で現場のメンバーが顧客レコードの意味を深く理解せずに施策を行う。また、まったく異なる業態や業界にもかかわらず、多くの企業がまったく同じ様なシステム設計図を持っており、どこかの設計図が汎用物として配布されているのか、と思ってしまうこともある。その様な場合は、やはりフライホイールではないにせよ「Unified Flywheel」と「Unified GTM Strategy」などのシステム設計に関わる土台がないのであろうと感じる。

当時の同社マーケティングと営業部門で利用されていた顧客レコードシステムは非常に高度に同期はされているものの、やはりマーケティングと営業で用いているデータの構造などのギャップや遅延が存在しており、管理オペレーションに負荷がかかっていたとのこと。また、運用オペレーションに関してもフライホイール型のオペレーションでは、すべての段階を各部門が担当するため、マーケティングと営業部門が同じ段階の見込み客に対して部門ごとにパーソナライズされたアクションを取るためには、「リアルタイムでの顧客情報の把握が必要だった」とジョン氏は強調する。
通例、マーケティング担当者が頼るデータはCDP(Customer Data Platform)と言われるものから引き出されるもので、リストセグメンテーション、メール開封情報、誰がフォーム入力したかなどのマーケティングに関わるデータを扱う。一方で、営業部門では、案件進捗管理に基づいたパイプライン管理や商談メモなどをCRM(Customer Relationship Management)に入力して活動を行う。つまり、データのコンテキストが異なるため、ギャップは大きく、ジョン氏が前述した様に、営業活動とマーケティング活動が噛み合わないことにつながり、結果として一貫した顧客体験を損ねることにつながる、という訳である。
同社のマーケティングチームも、顧客体験に一貫性を持たせるために顧客レコードシステムを一元的にするアイデアを気に入り、マーケティングと営業が同じレベルでCRMを活用することで合意。HubSpotではこれを自社のコンテンツシステムもさらに進化させ自社CRMへもデータを反映、CRMを基盤にしたマーケティングを、「CRM-Powered-Makreting」と呼んでいる。このことによりデータ扱いが簡易なり、データの精度も上昇、前述したシステムユーザビリティスコアが20%向上し、営業部門からの評判も大変よくなったとも付け加えた。
