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イベントレポート

HubSpot最高顧客責任者が考える“顧客中心の事業活動”の作り方/INBOUND2020レポート

 米国時間9月22日から24日にかけて開催されたHubSpot社主催の年次イベント「INBOUND2020」。新型コロナウイルスの影響で、通例のボストンのコンベンション&エクシビジョンセンターによる開催から、オンライン開催と形式が変更された。本レポートでは、事業成長を望むマーケティングリーダーが知っておくべきセッション2つをピックアップし、日本企業のマーケティング担当者のアイデアになることをお伝えしたい。

▼「INBOUND2020」キーノートセッションのレポートはこちらから
ニューノーマル時代に求められる“企業カルチャー”とデジタル業界の未来/INBOUND2020レポート

HubSpot CCOが考える“顧客中心の事業活動”の作り方

 まず紹介したいのは、HubSpotのCCO(Chief Customer Officer/最高顧客責任者)を務めるヤミニ・ランガン氏のセッション「How HubSpot Is Powering Its Flywheel(HubSpotはどのようにフライホイールを回しているのか?)」。CCO職は、顧客に関わるすべての活動(マーケティング、営業、サービス)を束ねる役割を果たしており、ヤミニ氏は前職DropboxでもCCOとして活躍していた人物だ。

HubSpot CCO ヤミニ・ラニガン氏
HubSpot CCO ヤミニ・ランガン氏

 セッション冒頭、ヤミニ氏はABMベンダーTerminusの共同創業者 Sangram Vajre氏の言葉「Retention is the new acquisition and helping is the new selling(顧客維持は新たな形の顧客獲得であり、顧客支援は新たな形の営業活動である)」を引用し、「顧客を支援すること、顧客との信頼を重ねていくことは、この時代には特に大切である」と力強く述べた。

 2020年初頭から全世界で大流行している新型コロナウイルスによって、皆さんも“企業の根本的なあり方”を再考する機会が増えたのではないだろうか。HubSpotも同様で、未曾有の大不況により倒産や廃業に追い込まれる企業が増加する中、2020年以降の自社の“成長”とは何か“自社はレジリエンス(復元力、耐久力)を持っているのか”ということをマネジメント層が再考したという。

 「HubSpotでは、どんな環境や状況に対しても適応し生き延びる力である“レジリエンスの高いビジネスモデル”を構築すると同時に、危機的な状況にも対応できる“柔軟なチーム”を目指していました。しかし、残念ながら当社ではチームがサイロ化し、迅速な意思決定の仕組みが欠けていたのです。チームのサイロ化は、部門間の分断として顧客体験にも影響を及ぼします」(ヤミニ氏)

素早さを犠牲にしていた過去の組織モデル
素早さを犠牲にしていた過去の組織モデル

 ヤミニ氏は「これまでの組織体系が起因し、コミュニケーションコストが増大し、社内ミーティング、人、プロジェクト、時間という要素が部門間を行ったり来たりする状況でGap(差)が発生、顧客体験も理想とは遠かった。レジリアントな成長を続けるためには、組織変革が必要だった」と強調。そして、レジリアントな組織変革を進める、5つのステップを紹介した。

レジリアントな組織を作る5つのステップ

ステップ1:意思決定者の統合

 HubSpotはこの顧客中心のチーム編成を“フライホイールチーム”と呼び、2つのチームを作った。一つ目はマーケティング、セールス、カスタマーサクセス、オペレーションから構成されるGTM(Go To Market)チーム。もう一方が、プロダクト開発、人事、会計、システムやBIを見る“部門間横串”チームだ。

 このような組織名にしている理由は、通常のファネルごとのチーム名にすると、ファネルの段階によって部門の関係性がサイロ化してしまうこと、何より顧客が後付けになってしまうからだ。それらを防ぐために二つのチーム名をつけ、フライホイールチームは隔週でミーティングを開催したという。

フライホイールチームの構成
フライホイールチームの構成

ステップ2:成長機会の抽出

 チームができたあとは、顧客体験を良くしていくために、どこを改善すべきか「成長機会の抽出」を行う。成長機会を見つけるためには、定量的と定性的という2つの視点を持つ必要がある。定性調査は比較的取り組みやすく、従業員、顧客、販売代理店(※同社はチャネル販売有)にヒアリングをし、成長機会と成長阻害要因を徹底的に見つけ出すことだ。すべてを同時に行う必要はないが、継続的に行う必要がある。

 次に重要なのが、定量的な成長機会の評価だ。HubSpotではGrowth Graderというフレームワークを利用し、GTMの縦軸を、Attract(惹きつける)Engage(信頼関係を築く)Delight(顧客満足を築く)Flight Friction(部門間/システム間で取り除くべき摩擦)とステージに分け、成熟度と市場でのポジションを表すために横軸をInitiating(初期)Emerging(発展期)Acceleting(加速期)、業界でのリーダーと言えるであろうポジションのDisrupting(創造的破壊期)と4つへ分解する。

 同社では、定量的な指標として、収益性が改善しているのか、また市場と比較してどのような状況なのか、という視点から、Net New ARR/# GTM Employee(GTMに関わる従業員一人あたりの新規年間形状収益)で計測したという。

HubSpotがGrowth Graderを使って分析した結果
HubSpotがGrowth Graderを使って分析した結果

ステップ3:マーケット戦略のアライメント

 次に行うのは、カスタマーインによるアプローチ。同社のような包括的なソフトウェアの場合、ファンクションアウト(部門別による企業主体の顧客へのヒアリング)が行われることが一般的だが、顧客へのヒアリングを包括的に行うためにすべてを前述したようにまとめ上げてヒアリングを行う必要があり、このことにより顧客への負担が減り、GTMの整合性が取れやすくなる。そのため、必ず、顧客主体で行われる包括的な調査を行うことが大切だ

 その後に行うべきなのが、今後3年間の戦略の選択である。ここでは必ず「するべきこと」と「しないこと」を明確に決めるが、「しないこと」を決めるのは「するべきこと」を決めるよりも重要だという。HubSpotでは、この決定を行うために、4つの定義を作成した。

1.A winning aspiration:成功の像、意義、目指すもの。

2.Where to play:どこの領域で勝負するか、どこの領域で勝負しないか。
3.How we win:勝負をする領域での戦い方や勝ち方。
4.How we measure:定量的な成功を図る方法。

 これらを策定した後に、具体的な1年間の戦略に落とし込む。HubSpotでは、M-SPOTという以下の要素に戦略を分解した形に落とし込み、実行へ移ったという。

M(Mission):ミッション
S(Serving):対象の顧客像
P(Plays):実施する戦術
O(Omission):何を”しない”か
T(Targets):定量的目標指標

 ヤミニ氏は、「この1年計画を四半期ごとに振り返り、現在地を観測することが大切」と述べる。

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この記事の著者

戸栗 頌平(トグリ ショウヘイ)

株式会社LEAPT(レプト)
代表取締役

複数BtoB企業と起業を経て、マーケティングコンサルタントとしてBtoB専業マーケティング代理店へ従事。その後、外資SaaSのユニコーン企業の日本法人立ち上げを行い、法人営業開始後マーケティング責任者として創業期の日本法人を牽引。現在、LEAPTにてBtoBマーケティング支援事業を行う。海外SaaS、マーケティング、カンファレンス等に精通。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/20 09:00 https://markezine.jp/article/detail/34551

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