ファーストパーティデータを取得していないのは甘え
――新しくなった社会的倫理にスピード感を持って対応し、自らを刷新していければ、ビジネスチャンスの獲得にもつながりますね。ただ、そうは言っても、現場のマーケターは日々の数値目標があり、現代の社会的倫理とそれに照らした自社の倫理について、腰を据えて考えにくいところもあると思います。
状況はわかりますが、もうCookieが自由に使えた時代とは違うのだから、Cookieに依存しない形を考えないことには始まりません。一つの策は、ファーストパーティデータをしっかり取得することです。GoogleやFacebookといったプラットフォーマーによるデータ寡占の状態から目覚めよ、と言いたい。その状態から脱して、飛躍するチャンスが今なのです。
たとえばサントリーや花王、資生堂などの大手BtoCメーカーは、かつてはほぼ完全に卸経由で市場に商品を流通させていたので、顧客データをまったく取得できませんでした。それが今や、自社の会員サイトを設けて、直接データを取得しコミュニケーションを重ねていますよね。ファーストパーティデータを企業が取得し、活かしていくことは、前述のエンパワーメントにあたります。プラットフォーマーへの中央集権ではなく、各企業が自社の資産としてデータを取得・活用するのです。そのための技術やツールは、随分前からありました。いまだに乗り出していないのは、甘えとしか言えない。
他の解決策としては、短期的には同意管理の仕組みであるコンセントマネジメントプラットフォーム(CMP)や、IDを使った広告エクスチェンジが広がりつつあります。
倫理観とビジネスモデルは更新し続けるもの
――長期的には、データ活用に関する議論はどのような方向に向かうのでしょう。
テクノロジーの発展に応じて、様々な論点が出てくることになるでしょう。たとえば、日本ではまだ想像しにくいですが、人体に埋め込まれたチップから提供される決済情報や位置情報を利用する、という方向もあります。欧米で進んでおり、特にスウェーデンが先進的ですね。日本にも入れ墨の文化はあるわけなので、いずれネイルチップを付けるような感覚で取り入れられていくかもしれません。その際、位置情報を提供する時間帯を区切るとか、健康管理に役立つ心拍情報は送信するなど、自分で細かく設定できるようになるでしょうし、そうしたデータを個人向けサービスへ還元する事業者も多数登場すると思います。心配する人もいるでしょうが、個人にデータ管理権限がある状態で便利になるなら私は気になりません。これも一種の個人に対するエンパワーメントだと思います。
さらに長いスパンで言うと、電極を介して脳とマシン、または複数人の脳を直接つなぐブレインマシンインターフェースと呼ばれる技術も発展しています。こうした話が現実味を帯びてくると、どこまでが私のデータなのか、そもそも「私」のデータとは何か、今とは異なる議論が出てくるのではないでしょうか。企業はそのときどきの状況と世の中の受け入れ度合に合わせて倫理観とビジネスモデルを更新し続け、チャレンジを続けることが大事だと思います。
