広告からブランドをデザインする役割に変化
――R/GAがこれまで取り組んできた案件で興味深い案件はありますか。
二つあり、一つは資生堂の「Beyond Time」です。資生堂の長年にわたるエイジングサイエンスの知見と機械学習を活用し、体験者の未来や過去の姿を映し出す技術を開発しました。このときは「バーチャルタイムトラベル体験」を提供したのですが、今回の技術を用いれば自分に合った化粧品の提案など、長期にわたる有効な顧客向けのサービスとして成長していくことも可能です。新しい技術の活用が私たちの想像力を膨らませてくれる良い事例だと思います。

もう一つは、ブラジルの若者向けに全く新しい銀行「NEXT」を作った事例です。もともとブラジル大手の銀行から若者向けのキャンペーンを依頼されたのですが、インサイトを掘り下げていくと低収入の若者にとって低金利で複雑な銀行のサービス自体が問題であり、彼らが必要としているのはお金を貯めるためのサービスではなくお金を上手に使うためのサービスであるということがわかりました。結果としてこの事に特化した銀行を立ち上げ成功した例ですが、いかにインサイトが重要かがわかります。

――どちらも単純なキャンペーンを超えた事例でおもしろいですね。
R/GAは9年サイクルで会社の事業形態を変えていくというおもしろい会社で、2020年にちょうど新しいサイクルが始まるところです。次の9年は「人々の生活に貢献できるブランドやビジネスをデザインする」ということを目的とし、それに伴ったサービスを提供していきます。元来の広告の領域とブランドによる顧客サービスの境界線は崩壊しつつあり、ナイキをはじめその両側から様々なブランドに携わってきた弊社は時にクライアントの内側よりそのつながりを客観視してデザインできる立場にあり、様々なお手伝いができると考えています。
未知のものにチャレンジしていくカルチャーを作る
――最後に、R/GAでの今後の展望を教えてください。
R/GAは一つの経済圏として様々な文化や人材及び知識が国境やオフィスの枠を超え自由に移動できるユニークな会社です。僕も似た様な仕組みを模索している企業をたくさん見てきましたが、ここまで実現している会社はあまりありません。そういう意味で日本の企業の方々にも慣れ親しんだ仕組み以外の提案ができるはずですが、未知のものにチャレンジしていくには違いを受け入れる心構えがなければフラストレーションが溜まる一方です。自分達だけで新しいものを追い求めるのではなく、一つ一つクライアントと共有できるビジョンを作り上げ、共同で変化を生み出していくカルチャーを作って行きたいと考えています。
ちなみに弊社ではメイクデイ、あるいはR/GAUNI(大学)といったワークショップを開催し短期間に共同でアイデアをプロトタイプ化するような活動も行っています。日本では資生堂や凸版印刷といった企業の方々にも私たちのアプローチを体験していただき好評を得ています。様々なやり方で未知のクリエイティブやブランドのあり方をデザインする試みを今後も様々な企業と展開していきたいです。