近年の発展の二本柱グローバルとデジタル
――なるほど。確かに、『MarkeZine』も2006年のローンチ当初はまだWebメディア自体の信頼性が低かったので、既存のメディア業界では肩身が狭い感もありました。でも横を見て躊躇していては、おっしゃるように新しい価値は生まれにくいですね。
そう考えています。顧客に向き合うことを大切に事業を続けてきたことが、結果的にマクロミルがネットリサーチという領域を超えて総合調査会社に、そしてグローバル・デジタル・リサーチ・カンパニーに変化してきた根底にあると考えています。
――では近年の取り組みについてうかがいます。御社は2015年、デジタルマーケティング領域でのスタートアップや、グローバルな調査会社での勤務経験を持つスコット・アーンスト氏が代表に就任し、グローバルな活動の強化と、並行して新しいサービスやツール開発にも注力されてこられました。佐々木さんから見て、象徴的な活動についてお聞かせいただけますか。
ネットリサーチ会社として一定のポジションを得た後、総合調査会社に転換した次には、ご指摘のようにグローバル展開を強化してきました。同時に、デジタル領域でいかに我々の資産である国内130万人の消費者パネルを活かしていくかについても、模索を続けてきました。この2つの注力点の背景にはやはり、顧客のニーズの変化があります。
グローバル化に関しては、前代表が就任する直前の2014年、欧米を中心にネットリサーチ事業を展開していたオランダのMetrix Labを傘下に収めました。同社はその時点でネットリサーチ専業のマーケティングリサーチ企業としてマクロミルに次いで世界2位の規模であり、この買収は以降の当社のグローバル展開の大きな礎となっています。
デジタル領域では近年、YouTubeを中心としたデジタル広告の効果測定や、DMPソリューションの開発・拡販に注力してきました。さらに今年7月には、意識調査データと連動してGoogleAdsを配信できる「コンシューマー・インサイト連動配信」のリリース、9月には企業の戦略的データ利活用の促進を目的に三井住友カードさんとの業務提携を発表しました。この業務提携では、先方のデータ分析支援サービスと、当社のデータコンサルティングサービスを掛け合わせ、企業の戦略的なデータ利活用の促進を目指すと同時に、両社が提供する付加価値を高めていきたいと考えています。

企業保有のデータと130万人のパネルデータを統合する可能性
――三井住友カードさんとの取り組みは、おっしゃるように双方の強みが引き立つ座組だと感じますし、御社が「リサーチ×データ」の会社だという認識も新たにさせますね。2020年まではグローバルとデジタルが発展のキーワードだったと思いますが、代表として今後舵取りをするにあたっての重点項目は何でしょうか?
ひとつは、「データ」です。社会では、モバイル機器やデジタルメディアの普及・発達によって生活者の暮らしが大きく変化しています。それは、顧客のマーケティング活動にも大きな変化をもたらし、デジタルトランスフォーメーションの進展がその変化をさらに後押ししています。日々様々なデータが収集・生成されるようになり、顧客は、複雑化する生活者理解、変化するマーケティング活動への対応に加えて、「データの利活用」という新たな課題を抱え、いわば前例のない困難な状況にあると考えています。私はこの、データの利活用を支援するという点に、マクロミルの強みを活かす道があると考えています。
その上で、顧客の課題にともに取り組み「伴走する」という立ち位置を追求します。上記の状況にある顧客は、困難な状況に一緒になって取り組み、解決してくれるパートナーを求めています。私たちも、リサーチ課題に留まらずに、より上流にあるマーケティング課題そのものにともに取り組むことが必要だと思っています。
これまでの顧客との関係性も活かし、私たちだからこそ築けるユニークなポジションとして、顧客の日々のデータの利活用にともに取り組む、伴走するという立ち位置を追求しようと考えています。
――なるほど。企業が抱える課題が複雑化する中で、またスピードも速くなる中では、リサーチをする段階よりももっと上流から支援したりソリューション提案をしたりする必要がありますね。そうなると、必ずしもリサーチが答えにならない場合もある。そうした中で、日々のデータの利活用を支援するようになろう、と。
その通りです。幸い我々には130万人の非常に協力的なパネルがいます。その方々の同意に基づいて、6年分の購買データやEC購買データ、位置情報などをはじめとする様々な意識に依存しないマーケティングデータを収集しています。これらは私たちの競争優位となりますし、顧客が保有するデータと掛け合わせて分析することで、これまでは見えてこなかった生活者の理解や、打ち手のヒントが見つかると思います。同時に、そうした支援ができること自体が、我々の次の成長のドライバーになると考えています。