マーケターの会話の中心は常に「顧客」と「コンテンツ」
最後に、今後の日本におけるBtoBマーケティングの行く末を想像するために、米国でのコンテンツマーケティングとMAの周辺の移り変わりを紹介させていただきます。
日本では2014年頃からMAとコンテンツマーケティングという言葉がほぼ同時に流行し始めましたが、どちらも現在は落ち着きを見せています。一方で、マーケティング先進国と言われる米国では、2010年頃から日本と同様に両者の検索トレンドが増加したものの、以降MAへのニーズは平行線から下降気味であるのに対し、コンテンツマーケティングに対するニーズは、継続的な伸びを見せています。これは、“デジタルに移住”しなくてはいけない時代において、顧客に対して情報(コンテンツ)を届ける重要性がさらに高まっており、ツールはあくまでその手段であることを示す、一つの証拠ではないかと思います。
実際、十数ヵ国のマーケターが数百人在籍していた筆者の前職では、マーケターの会話の中心は常に“顧客”と“コンテンツ”でした。ツールの話が出てくるのは常に最後の最後という感じで、「ツールは最後に選ぶもの」という意識が強かったように感じます。
米国のツールベンダーの間でもその流れは明確で、単機能のマーケティングテクノロジー企業は事業が伸び悩むケースが増加し、顧客に対して包括的な体験を提供するために、機能を強化したり必要な機能を買収したりといった動きが見られます。
たとえばセールスフォース・ドットコムは、顧客を中心に置いた概念を「Customer360」と表現し、相互に連携したテクノロジー群を展開しています(※1)。HubSpotは顧客を中心に据えたサイクル型のビジネスに移行し、様々な状態の顧客に有益な情報(コンテンツ)を提供すべきという考えを「フライホイール」という言葉で表現し、実現のための製品群を提供しています(図表3)(※2)。

フライホイールは、クライアントフェイスの部門、マーケティング、営業、カスタマーサクセスのすべての活動の中心に顧客(カスタマー)を据えます。これまで一般的だったマーケティングのパーチェス(購入)ファネルは、顧客の動きを直線的に表現し、顧客になった時点で企業のアクションが終わってしまう、というモデルでした。
しかしながら、現代の顧客はデジタルの力を活用しています。直線的な動きでなく、いかなるタイミングでも購買行動をとることができるのです。またサブスクリプションモデルの台頭により、企業には継続顧客となっていただき、さらにサービスを活用していただく循環を作る努力も求められるようになりました。この流れを実現するには、直線的なファネルではなく、フライホイールのような循環型のモデルを企業活動のモデルとすべきです。そして言うまでもなく、コンテンツはどのステージにおいても欠かすことができません。
日本のBtoB企業がコンテンツマーケティングを行う際にも、この視点を大いに活かすことができるでしょう。本連載でお伝えした通り、ツールを導入するときには、顧客課題を正しく理解し顧客を事業活動の中心に置く、ツールのコンセプトや機能を理解する、自社のツール運用能力を客観的に理解する。このようなポイントを押さえながら、成果を上げていってほしいと思います。
COLUMN コンテンツ×テクノロジーが成功している企業は(まだ)わずか
実際どれくらいの企業がコンテンツ×テクノロジーを活用し切っているか。日本全国を見渡しても数えるほどしかないのでは、というのが筆者の肌感覚です。戦略の不在が大きな理由ですが、日本企業にはもう一つ大きな課題があります。それが「採用と職責の作り方」です。マーケティング職は各領域において高い専門性が必要で、かつ営業職並みに顧客を理解していないと務まりません。しかし日本企業では「メンバーシップ型」採用が多く、数年でジョブローテーションや兼任をさせてしまうことが一般的です。マーケティングの成熟化という観点では、専門職を育成する組織体制、さらには「ジョブ型」と言われる特定職務のプロの採用が必要になるでしょう。