実務的な取り組みを学術的に考察する
少し前置きが長くなってしまいましたが、ここまで見てきた通り、クラウドソーシングという言葉が一般的に用いられるようになってからは15年ほど、クラウドファンディングという言葉が注目を集めてからは10年ほどが経過しました。今では多くの企業や組織が関連した取り組みを進めているだけでなく、学術的にも様々な議論が行われるようになってきています。
そこで、2021年1月に発行した『マーケティングジャーナル Vol.40, No.3』では、クラウドソーシングやクラウドファンディングへの取り組みに対する理論的な考察や有効性に関する議論を深めていきたいと考え、「クラウドとマーケティング」を特集テーマとしました。これから、収録した4本の論文を紹介していきます。
クラウドファンディングを成功させる要因
COVID-19をきっかけに、多くの企業や組織がクラウドファンディングに乗り出すようになっています。それを可能にしている要因の一つは、CAMPFIREやMakuakeなど、有力なプラットフォームの存在でしょう。それでは、クラウドファンディングを成功させるためには、プラットフォーム上でどのように情報を提供していけば良いのでしょうか。
こうした問題意識から議論を進めているのが日本大学の石田大典准教授、千葉商科大学の大平進専任講師、早稲田大学の恩藏直人教授による「購入型クラウドファンディングの成功要因―シグナリング理論に基づく実証研究―」(PDF)です。
クラウドファンディングでの情報提供方法とプロジェクトの成否の関係を分析した研究は、これまでにも行われてきたのですが、日本を対象にしたものはそれほど多くはありませんでした。石田准教授らによるこちらの研究では、日本の大手クラウドファンディング・プラットフォームで収集されたデータの分析から、プロジェクトの成否や達成率に影響を及ぼした要因が特定されています。
詳しくは、論文中の「V. 分析結果」にまとめられていますので、そちらをご覧いただければと思いますが、たとえば、説明文の長さやGIF動画の存在はプロジェクトの成否や達成率にプラスの影響を及ぼすようです。これらの知見は、今後、クラウドファンディングに取り組もうと考えている方々に大きな示唆を与えてくれるはずです。
ふるさと納税をクラウドファンディングとして理解する
クラウドファンディングと関連した取り組みとしてふるさと納税が挙げられます。近年では、使い道を明確にしているふるさと納税を「クラウドファンディング型」と説明することもあるようですが、千葉商科大学の大平修司教授、東京国際大学のスタニロスキースミレ准教授、岡山大学の日高優一郎准教授、東京都立大学の水越康介教授による「クラウドファンディングとしてのふるさと納税—寄付と寄付つき商品による理解—(PDF)」では、ふるさと納税とクラウドファンディングの関係が改めて検討されています。
論文では、ふるさと納税が「寄付型クラウドファンディング」と「報奨型クラウドファンディング」に当てはまることが指摘され、それぞれのクラウドファンディングに参加する消費者の動機が示されています。また、これまでマーケティング研究の中で進められてきた「寄付」や「寄付付き商品」の先行研究を整理し、消費者が何をきっかけに寄付や寄付付き商品の購買に至るのかも知ることができます。ふるさと納税に関わる方々にとっては、納税者を理解するうえで大いに参考になるでしょうし、社会的課題への取り組みをマーケティングに組み込もうと考えている方々にとっても、様々なヒントを得られるかと思います。