顧客を知ることは、自分たちのブランドを知ること
――TO NINEでは、時計ブランドのKnot(ノット)やサザビーリーグのジュエリーブランドARTIDA OUD(アルティーダ ウード)など、数々のD2Cブランドをプロデュースしています。D2Cブランドのマーケティングの特長を教えてください。
「既存のお客様が満足し、自然発生的に口コミが生まれ、新しいお客様が興味をもってくれる」、これが最も理想的な販売戦略です。この戦略を軸に、ブランド立ち上げ当初はデータドリブンマーケティングで、認知の拡大、お客様化を目指すフェーズがあります。ここでは、短期的な売り上げを得ることも大事ですが、施策の質を高めて、ブランドに共感してくださるお客様と接点を持つことが、D2Cにとって大事な考え方です。このとき、他社事例やテクニックに踊らされてはいけません。単純にフォロワー数が多いインフルエンサーよりも、本当にブランドを愛しているインフルエンサーや、ブランドの価値観に合ったメディアであるか。そこを、お客様は見ています。他社で成功した施策が、そのまま自分たちにも合うとは限りません。お客様を知ることは自分たちのブランドを知ることでもあります。Direct to Consumerからブレずにいると、自分たちに最適なマーケティングが実現でき、おのずと結果もついてくるでしょう。
仮説を持って顧客と対話する
――自分たちに合うマーケティングを見つける方法は、ありますか。
自分たちが手を動かして、毎日、毎日考えることです。昨年6月に「Less is beauty」の思想を持つライフスタイルブランドSENN(セン)を立ち上げましたが、日々みんなでお客様理解のための議論をしています。一見非効率では? と感じられるかもしれませんが、ブランド立ち上げ期は、しっかりとチームでコミュニケーションをとるフェーズ。お客様の本音を知ることには、貪欲であるべきです。ただ、お客様が答えを持っているわけではありません。これを知らないと、「お客様の言う通りにしたのに、うまくいかない」と間違いやすいので、自分たちで仮説を用意して答え合わせをしながら、お客様を理解していく必要があります。
そして、「お客様と仲良くなりたい」気持ちでお客様と接することが重要です。従来の企業と顧客の表面的な関係ではなく、仲間や味方のような一歩踏み込んだ間柄や絆を作りたいとき、表面的なコミュニケーションでは、お客様の本音は聞けません。ぐっと入り込んだコミュニケーションが大切で、お客様の本音に触れていくと、さらに私たちへの関心や興味が湧いてくる。結果、強いコミュニティが生まれてくるのではないかと思います。
たとえば、ニットバッグのブランドBEYOND THE REEF(ビヨンドザリーフ)では、編み物が得意な高齢者や女性達が集まり、作る喜びや社会との繋がりを感じながら、制作されています。そんな思いが込められた手作りのバッグを買ったお客様は、「私も編み物がしたい」「バッグを作ってみたい」と心を動かされ、同ブランドには編み物を楽しむコミュニティが生まれているんです。買い手が作り手になり、体験やコミュニティを価値にしている、その最たる例だと思っています。
ブランドの振る舞い方が、顧客ロイヤルティを高める
――既存顧客のロイヤルティを高める一般的なCRM施策には、会員制のポイントブログラムや割引があります。そもそもブランドへの関心度が高いD2Cの場合、どのような施策が考えられますか。
ロイヤルティを高めるには、お客様の期待を裏切らないことが1番大事だと考えています。私たちも、まだまだトライアンドエラーを続けながらですが、小売りの定義を越えて、世の中に対し、そのときのタイミングに適した振る舞い方をしたいです。実際にSENNでは、お客様にご自宅で体験いただける、ホームリトリートのオンラインプログラムを行っています。リトリートとは、日々の喧噪から離れて、リラックスして自分と向き合うこと。プログラムでは、SENNの世界観に共感いただいた各業界のプロフェッショナルやブランドとコラボレーションし、ブランドメッセージの「余白を生ける」体験をお届けしています。
決して大きな売り上げに繋がるプログラムではありませんが、ブランドとしてあるべき振る舞い方だと感じています。その上で、コミュニケーション頻度も大切です。SENNでは、Instagramのライブ配信を定期的に行い、お客様との信頼関係を育てています。このような姿勢、振る舞い方が、ブランドへの支持にも繋がっているのです。D2Cは、関わる人も商品もパッケージも、カスタマーサポートの言葉もすべてがブランドですから、それぞれが正しい振る舞い方をしているかは、意識しています。この基盤があってはじめて、CRMやロイヤルカスタマー向けの施策、ポイントプログラムなどが生きて、お客様が喜び、ロイヤルティに繋がるのだと考えています。
