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生活者データバンク

イノベーションを起こす健康消費の捉え方

健康消費の新しい捉え方

 セルフヘルスケア市場には、新規参入や事業投資の検討にあたっての難点がある。それは市場構造のクリアな理解が難しいことだ。生活者と社会の根幹にある健康をテーマに取り扱うため、「未病」「予防」などの関連する概念の乱立が示すように、市場の定義が広大かつ曖昧になりやすい。また、健康を訴求する様々な商材・サービスのカテゴリー群があり、それぞれで商習慣やプレイヤー環境が大きく異なることも市場の複雑性を高めている。そのような特徴から、市場全体を構造的に捉えるのではなく、提供する商材・サービスを起点に市場を定義することが一般的である。結果的に、本来よりも局所的な市場をターゲットに打ち手の検討がなされることが多い。

(1)生活者起点のレンズへの転換

 そこで、セルフヘルスケア市場のクリアな理解には、従来の商材・サービス起点のレンズ(分析の軸)から生活者起点のレンズに切り替えて、健康消費を俯瞰的に捉えることが効果的だ。生活者起点のレンズでは、従来視ることができなかった本質的に変わらない健康ベネフィットを提供する競合カテゴリーの市場も視える。そうなると市場は今までよりも格段に大きいものとなる(図表3)

図表3 生活者起点のレンズへの転換(タップで画像拡大)
図表3 生活者起点のレンズへの転換(タップで画像拡大)

 たとえば、健康食品・サプリメント市場は約1.4兆円の市場であるが、生活者起点のレンズでセルフヘルスケア市場を見ると「5倍以上」となる「約7.3兆円」の市場がある。また、セルフヘルスケア市場の健康ニーズをブレイクダウンした「筋肉強化」市場内においては、健康食品・サプリメント市場は約500億円の市場であるが、他の競合カテゴリーを含めた全体を見ると10倍以上の7,000億円以上の市場が存在する(図表4)

図表4 レンズの違いによるターゲット市場のサイズ差
図表4 レンズの違いによるターゲット市場のサイズ差

 市場を生活者起点のレンズで正しく大きく捉えることができると取りうる打ち手も変わる。本質にある健康ニーズを競合カテゴリーより満たす提供価値があれば、健康消費のスイッチはカテゴリー間で起こり、従来の商材・サービス起点では考えられないビジネスサイズを実現できる。個人消費の絶対額が伸びにくい国内成熟市場で大きく勝つには必ず取り入れるべき発想だ。

(2)ニューコンビネーションによる差別化

 生活者起点のレンズで正しく市場のサイズと競合環境を捉えた後に求められることは、利益を生む差別化だ。生活者に選ばれるためには、従来にはない新たな価値を提案しなければならない。その際、「ニューコンビネーション(新結合)」という概念が効果的だ。経済学者シュンペーターが提唱した概念で、イノベーションの源泉は既にあるもの同士の新しい組み合わせであるとする。従来の単一カテゴリーに閉じた市場群、生活者の健康ニーズに紐付くカテゴリーのバラエティの豊かさは、ニューコンビネーションによる差別化には最適な土壌だ。また、生活者は健康ニーズを単一カテゴリーで充足させている訳ではなく、複数のカテゴリーをコンビネーションさせて充足している実態がある。従来の商材・サービス起点のレンズからは、それらニーズは十分に見えない。たとえば、「筋肉強化」市場では、「生鮮食品」と「軽い運動」をコンビネーションする市場が最も大きく、連想されやすい「高単価なプロテイン」と「ジム・フィットネス」といったコンビネーション市場は実は小さい。さらに、性別・年代やライフスタイルの違いが対処カテゴリーニーズの違いに反映されやすく、ターゲットならではのコンビネーションパターンを作りやすい(図表5)

図表5 「筋肉強化」市場のコンビネーションニーズ
図表5 「筋肉強化」市場のコンビネーションニーズ

 それらコンビネーションニーズを構造的に正しく捉え、カテゴリーを横断した組み合わせの新たな価値提案には、イノベーションのチャンスも大きい。単一カテゴリーで提供できる価値は特定の機能ベネフィットに限定されやすいが、カテゴリーをコンビネーションするとより高次元のニーズも捉えやすくなる。

 たとえば、「筋肉強化」市場のあるプレイヤーは、家の外で人と楽しくコミュニケーションを取りながら体を動かす場とプログラム(健康体操教室)を軸に、日々の美味しい食事へ低価格のプロテインを追加で提案することで、女性シニアの足腰の筋肉強化(機能性)に加え、社会的にも精神的にも健康でアクティブな生活(ウェルビーイング)を提案している。その差別化が強く効いたコンビネーション提案は、カテゴリーを横断する大きなニーズを捉えて、高機能な健康食品のみを提案する従来の実績ある大手プレイヤーのビジネスサイズを短期間で大きく超えて成功している。

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この記事の著者

田中 勇吉(タナカ ユウキチ)

株式会社インテージ コンサルティング部 コンサルティング・マネージャー
コンサルティング会社二社及び現職で、主にヘルスケア、情報・通信サービス業界の事業戦略、海外進出、M&Aをテーマに多数プロジェクトに従事。規制・技術環境の変化や生活者ベネフィットを起点とする業界横断の市場分析から、既存事業の再構築、新規事業の企画・...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/03/29 06:30 https://markezine.jp/article/detail/35826

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