CPAだけ見ていてもわからない。見せかけの成長に要注意
MZ:見せかけの成長とは、どういうことでしょうか?
栗原:PMFしていないプロダクトでも、優秀な営業、優秀なマーケターがいたら、ある程度売れてしまうのです。たとえば次のようなケースです。
【ケース1】営業は日々顧客に接する中で、売るための障壁を感じるとともに、プロダクトの改善点が見えつつある。しかし上司に問題提起すると「営業のスキルが低いのでは?」と思われてしまうかもしれず言いにくい。疑問を感じながらも、受注するための努力をする。強力な営業スキルによって売上は上がっているが、顧客にフィットしているのは彼のその営業力のみだった。
【ケース2】マーケターはプロモーション施策の中でPDCAを回してしまい、向き合っている市場がそもそも正しいのか、プロダクトが顧客の課題を解決しているのかという問いを持ちにくい。持ったとしても、ケース1と同じ理由でCPAを下げる努力、リード数を最大化する努力に終始してしまう。
田中:こうした売り切るための部分最適の結果、プロダクトチームに顧客の声が共有されず、(must haveではない)nice to haveな機能開発に邁進する、クレームの多い機能の改善にリソースを使う、といった間違った方向に突き進んでしまうことがあります。
栗原:広告や展示会のCPAやLPのCV率だけを見ていても、PMFしているかどうかはわかりません。
私自身、自分が営業パーソンだった時にPMFしていないプロダクトを扱っていたことがありました。その事業は売上が伸び悩んでいたのですが、営業のスキルが低いのでは? 営業のプレゼンが悪いのでは? 1日のテレアポ数が少ないのでは? という議論に終始し、チームが疲弊していました。PMFという概念を持っていれば、事業に関わる人たちの活動がもっと報われていたと思います。
田中:営業が課題を吸い上げて、マーケターがこれを客観的に分析する。そしてプロダクトマネージャーがどのようなプロダクトにするか考え、開発する。PMFにはこの有機的な動きが欠かせません。その意味で、PMFする前に各部門でKPIを置くことがむしろマイナスに作用することもあります。

どんな指標を見れば良いのか?
MZ:そうすると、PMFに向かってどんな指標を置いて、どのように改善していくのかが問題になりそうです。
稲田:NPSやSean Ellis Testなどを用いることが多いですね。SaaSやサブスクのサービスでは、チャーンレートや離脱率である程度わかる部分もあります。
NPS:Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)。顧客ロイヤルティを測る指標。顧客に友人や知人にお薦めしたいかどうかを尋ね、0(まったく思わない)から10(非常にそう思う)の11段階で評価してもらう。0~6を「批判者」、7と8を「中立者」、9と10を「推奨者」とし、推奨者から批判者を引いた数をスコアとする。
Sean Ellis Test:「このプロダクトが使えなくなったらどう感じるか?」を尋ね、とても残念、まあ残念、あまり残念ではない、無回答(もうこのプロダクトを使っていない)で答えてもらう。「とても残念」の回答が全体の40%を超えたら、PMFしていると判断する。
田中:顧客の熱狂という定性的な現象を客観的な指標で捉えないといけないため難しいのですが、こうした指標の設定、計測は、マーケターの知見が活きるところではないかと思います。
PMFに至る過程においても、マーケティングの手法が役に立つ点がたくさんありそうです。たとえば、PMFに至るためにはマーケットから正しくインサイトを抽出する力が重要になります。BtoBビジネスでは業種や規模などのデモグラベースで市場を切ることが多いですが、マーケターは行動ベースで切ってみるなど、より多様な方法で顧客を捉えていますよね。そうした発想を活かせば、PMFしているセグメントを見つけられるかもしれません。
MZ:マーケターがPromotionが自分の主な職域だ、と限定せず、PMFのプロセスにもどんどんスキルや経験を活かしていくと良いのかもしれませんね。
稲田:はい。他にも、今はペルソナマーケティングの手法がかなり現場で使われていますよね。BtoBであっても商品を検討して、買うのは最後は“人”なので、BtoBでも法人の先にいる正確なペルソナを抽出してそこに向かっていくことは、PMFにおいても大切なことです。
スタートアップ業界にはマーケティングに強い人がまだまだ少ないので、マーケターがコミットしてくれることで、より早くPMFに到達できるようになるはずです。