すぐにフィードバックをくれるユーザーは「宝物のような存在」
コンセプト策定のほかにもう一つ、HERPのPMFを支えていたのは、顧客からのフィードバックを頻繁に得られる環境だ。課題解決にいかにフィットしてるかというのを測るためにNPSスコアと、ある時期からはSean Ellis testを測るアンケートを、毎月顧客に回答してもらってきた(※)。
(※)NPSスコアは顧客ロイヤルティ、顧客の継続利用意向を知るための指標。またSean Ellis testは、「もしこの製品が使用できなくなった場合、どのように感じるか」を尋ね、顧客にとってMust Haveな製品になっているかどうかを確認するもの。
同社ではユーザーのSlackコミュニティを構築し、アンケート形式に限らず機能追加の告知や意見の募集も、そこに投稿すると率直な回答を得られる関係性を築いていた。チャンネルには現在約500人が参加しており、庄田氏は「効率の良いプロダクト改善を支えてくれた、僕らにとって宝物のような存在です」と表現する。
庄田氏は初期からユーザーとの関係構築を大切にしてきたと明かした一方で、同社の対象顧客がITスタートアップかつ人事担当者であり、ツールを用いたコミュニケーションのハードルが低かったこと、自身の元々の知り合いに初期ユーザーとして協力してもらったことも影響していると述べていた。

PMFへの近道は、順番を間違えないこと
取材の最後にPMFに到達するためのアドバイスをお願いしたところ、次のように答えてくれた。
「まずはコンセプトありき。その先にどこから予算を出していただくのか確認をすることです。それができてはじめて、開発やマーケティングに進めます。この順番を間違えると、行って戻って、のプロセスが繰り返されてしまうことになります」(庄田氏)

加えて、初期にユーザーとの強い関係性を作っておくことが、「プロダクト改善の効率以外の観点からも、非常に大切」と語る。
「私の考えでは、起業家に一番大切なのはモチベーションです。諦めてしまったら終わりなので、そうならないためのリスクヘッジを絶対にするべきだと思っており、ユーザーさんとの強い関係性が、その役割を果たしてくれます。ひたすらマーケットと社内の関係性だけで気持ちを保つのは難しい。ですがユーザーさんと話をすると、本当に困っていることが伝わってきますし、何かできるかもしれないという自分たちへの期待感も生まれます」(庄田氏)
「いつかマーケットが生まれる、コンセプトもフィットする」と信じ続けられるように、その道中で自らのエンジンを切らしてしまわないように、ユーザーとの接点を大切にしていこうと呼びかける庄田氏。社員一人ひとりが積極的に採用活動に参画できる未来の実現にむけて、挑戦を続けていく。

取材後記
プロダクトアウトかマーケットインか。よくある二者択一の議論ですが、PMFというのは、プロダクトがマーケットにフィットして受け入れられている状態を指すという意味では、両方が重要ということでもあります。HERPさんは、初期はどちらかというとプロダクトアウトな形でサービスリリースをし、ユーザーとの対話の中で、徐々にプロダクトの機能とコンセプトをマーケットにフィットさせ、受け入れられていったというPMFストーリーを、泥臭い部分、色鮮やかな部分、そしてエモーショナルな部分もあわせて語ってくださいました。
自社プロダクトを無料から有料課金にシフトすることで、顧客に対しての付加価値、経済価値を今までいかに提供できていなかったかが明確になったこと、顧客のプロダクト導入のための予算化をどうやって行ってもらうか、Slackで顧客全員を巻き込んで常にフィードバックをもらえるコミュニティ構築、そこで毎月NPSスコアやSean Ellis Testを測定することなど、PMFを成し遂げるための解像度高いヒントが多く散りばめられています。
PMFには終わりがないと言われますが、HERPさんの事例から、顧客やマーケットに真摯に向き合うことの大事さを改めて学べると思います。(DNX Ventures 稲田 雅彦氏)