機能とコンセプト、どちらも市場にフィットした状態がPMF
HERPが提供している「HERP Hire」は、全社員が採用活動に参加し、採用の質と成果を高めていくための採用管理プラットフォームだ。具体的には、複数の求人媒体からの応募情報を自動連携したり、Slackなどにつないで情報共有をスムーズにすることで、社員が採用活動に参加しやすくする。あわせて、将来一緒に働きたいと思うような知り合いの情報を蓄積しておくタレント管理プラットフォーム「HERP Nurture」も提供(現在はベータ版)。メイン顧客はIT系のスタートアップだが、最近では大手企業のDX推進室において導入されるケースも増えているという。
同社は全社員が採用に参加し、採用の質と成果を高めていくことを「スクラム採用」と名付け、これを掲げて営業・マーケティングを行っている。
「日本の採用活動で一般的なのは、経営陣の方々が欲しい人材や目標人数を決め、人事が数百、数千人のエントリーを集める、というプロセスですが、こういった採用活動における意思決定を民主化していくのが当社の考えている理想の状態です。いまどんな人材が欲しいかは、現場メンバーが一番わかっている。それならば、要件や人数感、期限なども含め、現場の声を反映できたほうが良い。それを目指す会社をサポートするためのサービス開発・提供を行っています」(庄田氏)
しかし、実は同社が初期のLPに掲載したコンセプトは、「人事の事務作業をゼロにする、AIリクルーティングプラットフォーム」という「今思えば改善の余地が大いにあるキャッチコピー」(庄田氏)だった。ここに磨きをかけたことが、同社をPMF(Product Market Fit)に導いたターニングポイントだったと庄田氏は考えている。
「起業したばかりの頃は、PMFと言うと、最近流行のPLG(Product-Led Growth※)のような、プロダクトそのものがバイラルで、何も施策を打たずともどんどん広がっていくようなイメージをもっていました。だから自分たちのプロダクトについても、とにかく自動化・効率化の機能さえ提供できれば、使ってくれた人事の方々が『これはすごいね!』と広めてくれるはずだと思っていたのです。ですが今は、『機能とコンセプトの両方がマーケットから受け入れられている状態』がPMFだと考えています」(庄田氏)
(※)Product-Led Growth。顧客の獲得、転換、拡大の主要な推進力が(営業ではなく)製品になっている成長モデルのこと。米国のVCであるOpenViewが提唱(参考記事)。
庄田氏の言葉をさらに借りると、(1)プロダクトに関する市場からの認知がある程度統一されていて、(2)それが受け入れられることがわかっていて、(3)さらにその認知が実現できるプロダクトがある、という3条件がそろった状況がPMFであり、マーケティングに進むタイミングであると判断できる。
本連載第1回では、PMFとは何かをわかりやすく説明しています。こちらからどうぞ!
ベータ版の提供で人事担当者からのニーズを確認
庄田氏が創業初期に解決を目指したのは人事担当者がもつペインで、具体的には、採用に関する情報が様々なプラットフォームに散らばっており、確認や統一の手間がかかるというものだった。そこで求人媒体上のメッセージを1つのアプリケーションで行えるというAPIを、採用管理システム各社に提供しようと考えたが、技術的な問題から、自分たちでシステムそのものを作ろうと方針を転換。候補者情報がすべて自動で反映されるスプレッドシートのようなものを試作し、当時採用コンサルティングを提供していた顧客企業に使ってもらったところ、大きな反響があった。
「採用フローの一部分ではあるものの、自動化というソリューションは、やはり受け入れられるのだということがわかったため、もっと本気で採用管理システムを作ろう、と創業メンバー間で合意が生まれました」(庄田氏)
2017年3月、会社の創業とプロダクトのベータ版を同時に発表。このタイミングで300~400社から問い合わせがあり、数ヵ月後には650社に到達。コンサルの顧客企業や問い合わせをもらった企業から、テストユーザーに適した会社を探して協力を仰いでいった。
その後も機能追加とユーザーテストを繰り返し、2018年の夏頃から、少しずつ有償提供へと切り替えていった。その理由について庄田氏は、「無料でサービスの使用感を試していただいて『すごい』と思ってもらえることと、実際に課金いただいて社内のオペレーションを全部変えてもらえることの間には、大きな隔たりがある」と話す。実際に同社は、無償で提供していたときには見えていなかった課題に直面し、冒頭のコンセプト変更の話につながる重要な気づきを得ることになる。