ヒット作品から「話題の構造」を紐解く
今回紹介する書籍は、『話題を生み出す「しくみ」のつくり方 情報拡散構造から読み解くヒットのルール』。著者は、マーケティング・コンサルタントの西山守氏です。
西山氏は、電通で20年間に亘りマーケティングに従事した後、2017年にマーケティング・コンサルタントとして独立。SNSの黎明期からソーシャルリスニングに取り組み、関連書籍の制作にも多数関わっています。
本書で取り上げられているのは、マーケティングにおいて1つのゴールとも言える「ヒット」が生まれる仕組みです。前半では、最近ヒットした映画やテレビCMを引き合いに「話題の構造」を解説。後半は、それらの事例をふまえた実践編として、話題を生み出すためのフレームワークを提示し、具体的な方法論について語っていきます。
テレビや新聞などのマスメディアしかなかった時代とは違い、現代はInstagramやTwitterのようなSNSも主要なチャネルとしてプロモーションに活用されています。誰もが情報の発信者となれる今、企業のマーケティング担当者は何をどのように発信して話題を生み出せばよいのでしょうか。
話題化のコア要素「How」はマーケターの腕の見せどころ
本書で西山氏は、「話題の構造」は次の3つの要素から成立していると提起します。
1.Whatの要素=何を発信するのか?(ネタ、メッセージ)
2.Whoの要素=誰が発信するのか?(メディア、インフルエンサー)
3.Howの要素=いかに発信するのか?(情報流通構造)
売れている商品やサービス、あるいは成功しているCMやキャンペーンを見ると、これら3つが巧妙に設計されていることに気づくと言います。「What」と「Who」は、コミュニケーションプランの設計において不可欠な要素。程度の差こそあれ、大半のマーケターがそれなりの時間をかけて考えますが、「How」は綿密に考えなくてもプランの構築と実施が可能な分、つい疎かにされがちだと西山氏は指摘します。
しかしながら、このHowこそマーケターの腕の見せどころだと言います。Howの設計を前に怯む方もいるかも知れません。しかし、本書では次のように述べています。
「How」の要素は、ある程度は定式化することが可能ですし、データに基づいてロジカルに構築できる部分も多く、才能、あるいは勘と経験に依存することが少ないため、ノウハウさえ習得すれば、比較的手を付けやすい要素とも言えます。(p.147)
デジタル化が進み、あらゆる反響がデータとして可視化できる現代は、Howの設計に必要な材料が豊富に揃っています。本書では、Howを5つのパターンに分類。WhatとWhoに応じて、その中から適切なHowのパターンを選び取ることがポイントだと西山氏は述べています。
「バズる」より「意味のある話題を作る」が重要
本書の後半では、コロナ禍においてマーケターが意識するべきポイントについて解説されています。社会が一変し、マーケティングコミュニケーションの世界も変容が避けられません。リアルな接触の機会は大きく減り、また、外出が炎上の種になることもあるのではないのでしょうか。
そんな中、西山氏は「意味のある話題」を作ることが重要だと述べています。商品とあまり関係のない面白ネタを発信したり、フォロー&リツイートキャンペーンを行ったりすると、話題が一時的に急増することはありますが、必ずしもそれが売り上げに直結するわけではないと指摘。ブランドと関連する領域で、自発的かつ継続的に人びとから話題にしてもらうことが、瞬間的に「バズる」ことよりも意味を持つようです。
さらに西山氏は、意味のある話題を作るために、マーケターは「聞く」と「語る」のサイクルを繰り返すべきだと主張。地道なソーシャルリスニングで拾った声を基に、できるだけポジティブなメッセージの発信を心掛けること。そのサイクルを繰り返せば、企業に対する信用が生まれ、「この企業が言うことなら話題にしたい」と思ってもらえると言います。
本書で書かれているのは、いわゆる「ベタ」な方法論かもしれません。これからマーケターとして話題を作っていく立場にある方の入門書として、また、新メンバーを迎え入れる側である上司や先輩社員の方のおさらいとして、読んでおいて損はない一冊です。頭がなかなか仕事モードへと切り替わらない連休明けに、本書を読んでモチベーションを上げてみてはいかがでしょうか。